介護・福祉の新人定着を阻む「悪循環」の正体と、管理職が今日からできること

人材定着

せっかく採用した新人が、また辞めてしまった。

次の採用に向けて動きながら、どこかで「また続かないのではないか」という不安が頭をよぎる。そんな経験をお持ちの施設長や管理職の方は、少なくないのではないでしょうか。

新人が辞めるたびに感じるのは、コストや手間の問題だけではないかもしれません。「自分の職場に何か問題があるのか」「何を変えればいいのか分からない」という感覚は、管理職にとって決して軽くない重さを持っています。

この記事では、新人が定着しない職場に共通する「構造」と、それを変えるために管理職が今日からできることを整理しています。

大阪府・京都府・石川県をはじめ、各都道府県の社会福祉協議会や福祉系の法人で離職防止研修を担当し、自身も現場で離職ゼロを達成した経験を持つ立場から、定着力向上のポイントをお伝えします。

読み終えると、「新人への関わり方や環境の整え方」が具体的に見えてくるはずです。

採用難なうえに新人がすぐ辞める—介護・福祉業界の現実と、そのダメージ

新人が辞めるたびに失われるものは、採用コストだけではありません。残った職員の負担増、チームの士気の低下、そして「また辞めた」という職場全体の疲弊感—人手不足が続くなかでは、一人の離職がもたらすダメージは以前よりはるかに大きくなっています。

採用がいかに難しくなっているか、数字で確認してみましょう。

有効求人倍率を職種別に見ると、状況は明確です。

    全職業平均が1.25倍(令和6年、厚生労働省「一般職業紹介状況」)であることを考えると、福祉・介護・保育のいずれも、求職者1人を複数の事業所が奪い合っている状態です。

    つまり、今あなたの職場に来てくれた新人は、複数の選択肢のなかからそこを選んだということです。それほどの縁ある人材が、入職直後に辞めていく。その損失の重さは、採用コストという数字だけでは測れません。

    現場の実感としても、深刻さは数字に表れています。公益財団法人介護労働安定センターの「令和6年度介護労働実態調査」によると、65.2%の事業所が「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答しています。約7割の事業所が人手不足を感じているなかで、採用できた一人が辞めていく重みは、以前とは比べものになりません。

    出典:介護労働安定センター「令和6年度介護労働実態調査」図表1-2-1 従業員の過不足状況 全事業所

    採用コストについては、人材紹介会社を利用した場合の紹介手数料だけで数十万円規模になることも珍しくありません。加えて、新人の育成に費やした指導担当者の時間と労力、入職後に起きたミスへの対応コスト—こうした目に見えにくいコストも含めると、一人の早期離職が組織に与える影響は相当なものになります。

    さらに、離職理由として最も多く挙げられるのが「職場の人間関係の問題」です。給与水準などの待遇改善よりも先に、職場の人間関係が定着を左右しています。

    出典:介護労働安定センター「令和6年度介護労働実態調査」直前の仕事を辞めた理由

    では、定着している職場は何が違うのでしょうか。

    新人が定着する職場には、共通する「3つの原則」がある

    規模や予算に関係なく、新人が定着している職場には共通する3つの要素があります。研修でよく聞くのは「うちは大きな法人じゃないから難しい」という声ですが、この3原則はいずれも仕組みや費用よりも、日常の関わり方に根ざしています。

    介護・福祉施設で新人が定着する職場に共通する3原則(安心感・歓迎されている実感・緊張と緩和のバランス)の図解
    規模や予算に関係なく、どの職場でも実践できる原則です。

    原則① 安心感

    新人が「ここで働き続けられる」と感じるには、先の見通しが持てることが欠かせません。独り立ちまでの計画が示されているか、何かあったときに相談できる人がいるか。そうした環境が安心感を生みます。

    不安は不満に繋がり、不満が積み重なると離職のメーターが上がっていきます。先が見えないことへの不安や相談できる人がいない孤独感は新人の心を消耗させます。安心感は、離職メーターを上げないための基盤です。

    原則② 歓迎されている実感

    離職理由の第1位が「人間関係」であることをお伝えしました。新しい職場に入ってきた新人は、「ここで受け入れてもらえるだろうか」という不安を少なからず抱えています。

    自分が歓迎されていると実感できるかどうかは、その後の人間関係への期待感に直結します。「この職場にいたい」という気持ちは、技術や知識が身についてから生まれるのではなく、「受け入れてもらえた」という体験から生まれることが多いでしょう。

    原則③ 緊張と緩和のバランス

    仕事を覚える過程には適度な緊張が必要ですが、それが続きすぎると消耗します。例えば、良かれと思って休憩中も先輩がずっと話しかけていることがあります。それを喜ぶ職員もいるでしょう。しかし、ずっと緊張を強いられる負担感を覚える新人がいることも、忘れてはいけません。一人で過ごし、緊張感から解放する時間も作りましょう。

    また、一昔前は、「見守りしてて」と利用者や児童がいるところに新人を一人で「放置する」が珍しくありませんでした。しかし、仮に経験者だとしても、どれだけの緊張感を強いられるかは想像に難くありません。過度に緊張感を持たせていないか、どこで緩和させるのか。そのバランスを考える必要があります。

    この3原則を「具体的な行動」に落とし込むと、何が定着を助け、何が定着を妨げているかが見えてきます。次に、そのチェックリストを確認しましょう。

    あなたの職場は神対応か、塩対応か——3原則を具体的に確認する

    3原則を踏まえたうえで、あなたの職場の日常を振り返ってみてください。新人の目線に立ったとき、以下のどちらが多いでしょうか。

    介護・福祉施設における新人受け入れの神対応と塩対応の比較チェックリスト
    どちらが多いかで、職場の定着力が見えてきます。

    神対応が多い職場では、新人は「ここで頑張ってみよう」と感じます。一方、塩対応が多い職場では、新人は言葉にしないまま職場への不信感を積み重ねていきます。

    注意が必要なのは、塩対応の多くが「意図的な嫌がらせ」ではないという点です。忙しさのなかで後回しになっている、あるいはそもそも「気にしていない」ことが原因であるケースがほとんどです。それでも、受け取る新人の側には確実に影響が出ています。

    研修で施設長や管理職に「神対応と塩対応、あなたの職場はどちらが多いですか?」と問いかけると、多くの方が「正直、塩対応の方が目立つかもしれない」と苦笑いしながら答えます。この反応からも、昔から同じことをしているだけで、塩対応になっていることに気づけていないことが伺えます。このチェックシートはその気づきを得るきっかけとしてご活用ください。

    では、塩対応が積み重なった職場で何が起きるのでしょうか。

    「どうせ辞めるよね」——新人の早期離職が繰り返される職場の共通点

    塩対応の多い職場で新人が早期離職すると、残った職員はこう感じます。「やっぱり辞めた」「次の人もどうせ続かないだろう」——この「諦め」が、次の新人への対応に影響します。

    研修でよく耳にするのは、次のような場面です。

    最初のうちは、歓迎会を開き、先輩から挨拶をし、指導担当者も熱心に関わっていたとします。ところが、新人が辞めていくことが繰り返されるにつれて、少しずつ変化が起きていきます。「また歓迎会を開いたのに辞めてしまった」「丁寧に指導したのに定着しなかった」—そうした経験が積み重なるにつれ、次第に歓迎の気持ちが薄れていくとは、自然な流れでしょう。

    いつしか、職員紹介が省略される。歓迎会の話が出なくなる。指導に以前ほど熱が入らなくなる。備品の準備が後回しになる——「どうせすぐ辞めるから」という無意識の諦めが、じわじわと塩対応を広げていきます。誰かが意図的に手を抜いているわけではなく、傷ついてきた積み重ねが職場全体の空気を変えていくのです。

    そして新人は、その空気を敏感に感じ取ります。言葉にされなくても、「歓迎されていない」「ここに居場所がない」という感覚になるでしょう。その感覚を抱えたまま働き続けることは難しく、早期に離職していきます。

    その結果、また「やっぱり辞めた」という諦めが職場に広がる。次の新人にも同じ塩対応が繰り返される—この悪循環は、誰かが意図的に作り出したものではなく、繰り返す離職のなかで気づかないうちに生まれてくるのです

    繰り返す離職が生む諦めと塩対応の悪循環の図解
    この悪循環は、誰かが意図して作ったものではありません。だからこそ、構造として理解することが大切です。

    「新人が来るたびに同じことが起きる」と感じているなら、問題は新人の側よりも、この悪循環の構造にある可能性が高いでしょう。そしてこの構造を変えるには、「新人へのアプローチ」と「既存職員へのアプローチ」の両方が必要です。

    まず、新人の背景に合わせた具体的な関わり方を見ていきましょう。

    悪循環を断ち切るために——新卒・中途それぞれへの具体的な関わり方

    3原則と塩対応・神対応のチェックリストを踏まえたうえで、「では現場で何をするか」が問われます。新卒・若年者と中途採用者では、効果的なアプローチが異なります。一方で、共通しているのは、「相手の背景を見ながら関わる」という姿勢です。

    新卒・若年者への5つのポイント

    ① 表情・姿勢を整える
    指導担当者が新人の表情を観察しているように、新人もまた周囲の職員の表情や姿勢を評価しています。「怖い」「近寄りがたい」と思われるような表情・態度になっていないか、意識的に確認しましょう。普段の関わり方で安心感を積み重ねていれば、注意する場合も相手に届きやすくなります。

    ② 代理的体験を使う
    「やってみて」と言う前に、まず指導者がやって見せることが基本です。しかし、近年「見ててね」だけでは通用しないケースも増えています。そのため、「今から何を見てほしいか」を予告しましょう。予告したうえでデモンストレーションし、「次は自分でやってみて」という流れが安心感を生みます。見本を見ることで「自分にもできそう」という期待感が生まれやすくなります。

    ③ 小さな成功体験を積ませる
    できそうなことから始め、自信をつけさせましょう。最初から難易度の高い業務を任せると、失敗体験が積み重なり消耗します。「できた」という体験が次への意欲に繋がります。

    ④ しつこく褒める
    褒められ慣れている世代です。注意を効かせるためにも、まず安心感を醸成することが重要です。「褒めすぎかな」と感じるくらいで、ちょうどよいかもしれません。褒めることへの照れや「甘やかしではないか」という心配は、一旦横に置きましょう。

    ⑤ 不安は待たずに引き出す
    「何かあったら言って」と伝えるだけでは、関係ができていない段階では機能しにくいでしょう。こちらから「今日どうだった?」「難しかったところはある?」と声をかけ、不安を引き出すことが大切です。不安を抱えたまま一人にさせないことが、早期離職の防止に直結します。

    中途採用者への5つのポイント

    ① 指示ではなく依頼・提案を基本にする
    年齢やキャリアに敬意を払いましょう。「ウチのやり方で覚えて」という一方的な指示は、経験者には反感につながりやすいでしょう。「こうしていただけますか」「こちらのやり方はいかがでしょう」という依頼・提案のスタンスが基本です。

    ② 必要な理屈・根拠を添える
    根拠なく「ウチはこのやり方だから」と言うだけでは、経験のある中途採用者には納得しにくいものです。それどころか「前のところでは違いました」と言い合いになるリスクもあります。なぜそのやり方をするのか、利用者児童の安全や職場の方針に照らした理由を添えることで、受け入れやすくなります。

    ③ 期待を計画に乗せて提示する
    何を・いつまでに・どのレベルで習得してほしいかを、具体的な計画として見せましょう。「いきなり現場に入れられた」という感覚は、中途採用者の早期離職につながりやすい要素です。OJT進捗表などを活用することで、本人も指導者も見通しを持てます。

    ④ 能力評価は速やかに、細やかに
    中途採用者の能力は人によって大きく異なります。「経験者だから」と一括りにせず、実際にできていることとできていないことを早めに把握し、その人に合った関わり方を調整していくことが重要です。

    ⑤ ヒヤリング型指導+面談で両面から聞く
    中途採用者ならではの不安や本音があります。「前の職場ではこうだったのに」という戸惑いや、「経験者と思われているから弱音が言えない」という遠慮が潜んでいることもあります。話をさせる時間を多く取り、能力の把握と気持ちの整理を同時に行いましょう。

    新卒・中途いずれにも共通して言えるのは、「相手が何を感じているか」を先に把握することが、指導の精度を上げるという点です。業務の手順を教える前に、まず「この人は今どんな状態か」を確認する習慣が、定着率を変えていきます。

    また、新人の指導担当者を選ぶ際にも配慮が必要です。技術が高い職員が必ずしも指導に向いているわけではありません。新人の話を聞ける、不安を察知できる、丁寧に関われる—そうした関わり方のできる職員を指導担当に選ぶことが、定着への近道になります。「指導担当者を選べる仕組み」を持つ職場は、それだけで定着力に差が出やすいでしょう。

    「私の時はやってもらえなかった」——既存職員の本音とどう向き合うか

    新人への歓迎や丁寧な指導を呼びかけると、既存職員からこんな声が返ってくることがあります。

    「私が新人の時には、こんなことしてもらえませんでしたけど」

    この言葉を「抵抗」と捉えるか、「本音」と捉えるかで、その後の対応が変わります。

    この声は、自然の気持ちです。自分が傷ついてきた歴史があるなかで、「新人にはこうしてほしい」と言われれば、釈然としない気持ちにもなるでしょう。この感情に蓋をしたまま「頼むから協力して」と言っても、表面的な動きにしかなりません。蓋をすれば、いつか爆発します。実際に研修の場でも、この感情が長年くすぶっている職場の話を聞くことは珍しくありません。

    管理職が取るべき対応は、以下の3ステップです。

    ステップ① 不満を引き出す(過去を聞く)
    「あなたが新人のころ、辛かったことはどんなことでしたか?」と具体的に聞きます。不安や不満があるなかでも今まで続けてきてくれたことを、まず受け止めます。「それは辛かったですね」という一言が、相手の気持ちを整理する助けになります。

    ステップ② 感謝を伝える(現在に繋げる)
    辛い思いをしながらも続けてきてくれたことへの感謝を、言葉にして伝えます。「あなたがいてくれるから今の職場がある」という実感を持ってもらうことが、次のステップへの土台になります。感謝は「思っているだけ」では届きません。

    ステップ③ 一緒に作る側に回ってもらう(未来を演出する)
    「あなたが経験した辛さを、次に入ってくる人には味わわせたくない。だから力を貸してほしい」と伝えます。過去の辛さを「教訓」として未来に活かす立場に変えることで、協力の動機が生まれます。自分の経験が次の世代に役立つという感覚は、人を動かす力を持っています。

    既存職員の本音に向き合う管理職の3ステップの図解
    3つのステップは順番が重要です。まず不満を受け止めましょう。

    「演出する」という表現に違和感を覚える方もいるかもしれません。ただ、福祉の現場では利用者や児童、ご家族(保護者)に対して場の雰囲気を整えることは日常的に行われています。それと同じ感覚で、職員が安心して動けるよう環境を整えることも、管理職の大切な仕事の一つです。

    好循環を「設計」する—神が神を生む職場の作り方

    ここまでの取り組みは、いずれも管理職の関わり方に依存する部分が大きいでしょう。しかし、定着力が高い職場は「仕組み」を意図的に作っています。個人の努力に頼るだけでは、担当者が変わるたびに元に戻ってしまうからです。

    仕組みの一例として、研修現場で好評なのが「独り立ちした新人からの感謝スピーチ」です。

    独り立ちのタイミングで、新人に1分ほどのメッセージを伝えてもらいます。内容は決意表明ではなく「独り立ちに向けて関わってくれた先輩たちへの感謝」です。

    指導担当者だけでなく、周りでフォローしてきた職員にとっても「自分たちのサポートがこの人の独り立ちに繋がった」という実感が生まれます。その体験が、次の新人への関わり方を変えていきます。

    「私の時はやってもらえなかった」という感情を持っていた職員が、新人からの感謝の言葉を受け取ったとき、気持ちに変化が生まれやすくなります。「辛い思いをしてきたからこそ、後輩には同じ思いをさせたくない」という方向に気持ちが強くなることも少なくありません。

    この循環が回り始めると、職場の空気ごと変わっていきます。歓迎され、丁寧に育てられた新人が、今度は次の新人を歓迎する側に回る——これが「神が神を生む好循環」です。

    管理職に求められるのは、この循環を偶然に任せるのではなく、意図的に設計することです。まず既存職員の気持ちを引き出し、感謝を伝え、一緒に作る側に巻き込む。その先に、職場全体の定着力が高まっていく未来があります。

    一朝一夕には変わらないでしょう。ただ、最初の一手を打つことは、今日からできます。

    まとめ:新人定着は「仕組み」と「空気」の両輪で変わる

    この記事では、新人が定着しない職場に共通する構造と、管理職が今日からできることを整理しました。

    • 福祉・介護・保育はいずれも有効求人倍率が高く、一人の早期離職のダメージは以前よりはるかに大きい
    • 定着している職場には「安心感」「歓迎されている実感」「緊張と緩和のバランス」という3原則が共通している
    • 神対応・塩対応のチェックリストで、自職場の現状を具体的に確認できる
    • 繰り返す離職が「どうせ辞める」という諦めを生み、塩対応を招き、さらに離職を生む悪循環が起きやすい
    • 悪循環を断ち切るには、新人の背景(新卒・中途)に合わせた関わり方と、既存職員の本音への向き合い方の両方が必要
    • 既存職員の不満を引き出し、感謝を伝え、一緒に作る側に巻き込むことで、好循環が生まれていく

    新人定着の問題は、福祉業界に限った話ではありません。しかし、有効求人倍率の高さや職場環境の特性から、福祉・介護・保育の現場では特に切迫した課題として現れやすいでしょう。業界の構造的な課題があるからこそ、個々の職場での取り組みの差が、定着率の大きな違いになって現れます。

    管理職として「部下が急に辞める」という悩みをより広い視点から整理したい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

    → 部下が急に辞める本当の理由と、管理職が知っておくべきこと

    新人定着に向けて何から手をつければいいか迷っている方、研修の導入を検討している方は、以下からお気軽にご相談ください。研修プログラムを見るまずはご相談ください

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