職場改善の進め方|原因探しを「犯人探し」にしない、部下を巻き込む解決志向

原因探しで一人を責める会議と、望む未来を一緒に描く会議を対比したイラスト 人材定着

「新人が定着しない」「職場の雰囲気をよくしたい」といったテーマで開いた会議が、気づけば、特定の誰かの言動を責める場になっていた。そんな経験はないでしょうか。

職場改善の進め方といえば、まず問題を洗い出し、原因を突き止め、それを取り除く。多くの方が、この流れを思い浮かべるはずです。事故やミスの再発防止であれば、とても頼りになる進め方です。ただ、人間関係や職場の空気といったテーマに同じやり方を当てはめると、原因探しが、いつの間にか「犯人探し」にすり替わってしまうことがあります。

そこで今回お伝えしたいのが、ソリューションフォーカス(解決志向)という進め方です。原因からではなく、「どうなったらいいか」と「すでにできていること」から出発し、小さな一歩を重ねていく、という考え方です。小さくても成果が見えるので、周りを巻き込みやすく、前向きに続けやすい進め方です。

この記事では、人と人との関わり方をよくしていく場面に焦点を当てて解説します。ただ、この進め方は、設備の見直しや5S、制度の整備などにも応用可能です。職場改善の参考としてお読みください。

私自身、介護の現場でリーダーや主任として職場の立て直しに取り組み、その後は研修講師として、管理職の方々とこの進め方を試してきました。うまくいったことも、空回りしたこともあります。その両方を踏まえてお話しします。

読み終えるころには、原因を掘り下げる進め方と、解決を描く進め方の違い、そしてそれぞれをどんな場面で使えばいいのかが見えているはずです。明日の会議で、部下を巻き込むための最初の一手も、きっと見つかるでしょう。

原因を掘り下げるプロブレムフォーカスと、望む未来とできていることから出発するソリューションフォーカスの比較図
「同じ『今』から出発しても、原因をさかのぼるか、望む未来に近づくかで、向かう方向は正反対になる。

「新人が定着しない」会議が、いつの間にか一人の社員の話になっていく

ある職場の、リーダー層の打ち合わせを思い浮かべてみてください。管理職と主任クラスが集まり、議題は「なぜ新人が定着しないのか」です。ここ半年で、入ったばかりの新人が続けて辞めています。ここでいう新人は、新卒も中途も含みます。

しばらく意見が出たあと、誰かがこう切り出します。「そういえば、Aさんって、新人への当たりが強くない?」Aさんは、新人の指導によく関わっている一般社員です。

すると、会議の空気が変わります。「Aさんの言い方、きついんだよね」「新人が質問したら、ため息をつかれたって」「『前にも教えたよね』って、何回も言われるらしい」「『これくらい、わかるよね』っていう圧が強いみたい」一つ出るたびに、次の「そういえば」が続いていく。

ここで押さえておきたいのは、発言している人たちに、悪気はないということです。一人ひとりは、見たこと、聞いたことを出しているだけです。それでも、「事実」が積み重なると、結果として、その場にいない人への個人攻撃になってしまうのです。

そして、お気づきでしょうか。会議の問いが、いつの間にか入れ替わっています。始まりは「なぜ新人が辞めていくのか」でした。それが、「Aさんの関わり方は、どうなのか」に変わっているのです。新人が辞める背景には、仕事の負荷や教え方、職場の雰囲気、相談できる相手の有無など、いくつもの要素が絡んでいるはずです。けれど、話が個人の対応に集まった瞬間、そうした要素は議論の外に置かれてしまいます。

こうした会議の結論は、おそらく「Aさんに、それとなく注意しよう」でしょう。では、注意されたAさんは、どう受け取るでしょうか。自分のいない場で、自分のことが話し合われ、決められた。そう感じたとしても、不思議ではありません。身構えて、新人との関わりそのものを減らすかもしれません。そうなれば、新人はますます質問しにくくなるでしょう。解決しようとした問題が、形を変えて、また別の問題を生んでしまうのです。

こうした展開は、決して珍しくないのではないでしょうか。誰かを責めたかったわけではなく、本気で職場を良くしたくて、原因を突き止めようとした。その真剣さが、かえって会議を重くし、時に論点をずらしてしまうこともあります。ここに、職場改善の進め方の難しさがあります。

では、原因を掘り下げる進め方そのものが、悪いのでしょうか。実は、そうではありません。続いては、この進め方の本来の強みと、多くの人が見落としている、ある原則についてお話しします。

原因を掘り下げる進め方(プロブレムフォーカス)の強みと、「人を責めない」原則

問題を特定し、その原因を掘り下げ、根っこにある原因を取り除く。この考え方を、プロブレムフォーカス(問題・原因志向)と呼びます。多くの職場で「問題解決」といえば、この進め方を指すでしょう。トヨタの「なぜを5回繰り返す」でもおなじみです。

流れを、ざっくり4つに分けてみます。

  1. あるべき姿と現状の差、つまり「問題」を見つける
  2. 「なぜ起きたのか」を掘り下げ、原因を洗い出す
  3. いくつもの原因の中から、根本にある原因を特定する
  4. その原因を取り除く対策を決め、実行し、効果を確かめる

私も、問題解決の研修で、この進め方を扱ってきました。例えば「お客様への折り返しの連絡が、たびたび漏れる」という問題があったとします。「なぜ?」と問うと、「伝言を受けた人が、担当者に渡し忘れる」「担当者が受け取ったものの、後回しにして忘れる」と、原因の候補が枝分かれしていきます。さらに「なぜ?」「ほかには?」と重ねていくと、「伝言が付箋で回っていて、机の上で埋もれる」「担当者が不在のとき、誰が代わりに折り返すか決まっていない」「折り返しの期限が、どこにも書かれていない」といった原因が見えてきます。行き着く先は、誰かの注意力ではなく、伝言の書き方や置き場所、担当の決め方といった仕組みです。一つの問題の下に、いくつもの原因が根を張っていることがわかるのです。

この進め方が力を発揮するのは、原因と結果のつながりが比較的はっきりしている場面です。例えば、集計ミスや請求書の金額違い、提案書の抜け漏れ、引き継ぎ漏れ、メールの誤送信による個人情報の流出、納期遅れ、同じクレームの繰り返しといった場面です。原因を取り除かないかぎり、同じことがまた起きる可能性が高いものです。こうした場面では、根本の原因まで掘り下げることが欠かせません。仕事を進めるうえで、プロブレムフォーカスは、とても大切な考え方です。

そして、この進め方には、本来、大事な原則があります。原因を「人」に求めない、という原則です。

ビジネスの世界では、組織コンサルティング会社・識学の安藤広大氏が、著書『とにかく仕組み化』の中で、はっきりとこう述べています。

人を責めずに、ルールを責めるべきです

出典:安藤広大『とにかく仕組み化――人の上に立ち続けるための思考法』(ダイヤモンド社、2023年)より抜粋・編集/ダイヤモンド・オンライン「仕事ができる人は『人を責めずにルールを責める』そのワケとは?」(2023年12月13日)

同じ考え方は、ミスが命に関わる医療安全の分野でも、以前から示されてきました。東京都の医療安全推進事業の報告書には、こうあります。

医療事故が発生した時に、単に職員の失敗が事故の原因という見方だけでは、事故の本質を見極めることは困難であり、再発を防止できない。

出典:東京都医療安全推進事業評価委員会『東京都医療安全推進事業(インシデント・アクシデントレポート収集・活用事業)報告書』第3章「事故報告と分析手法」(2006年3月)P.46

「誰がやったのか」で止めてしまうと、本当の原因は見えてきません。担当者を責めて終われば、別の人が、また同じミスを繰り返すかもしれません。それだけでなく、ミスをしないようにと思い、萎縮してしまうことも考えられます。だから、「なぜ、その人がそう動いたのか」「どんな仕組みや環境が、その行動を引き出したのか」まで掘り下げる必要があるのです。つまり、人ではなく、仕組みに目を向けるということです。先ほどの折り返し連絡の例でも、行き着いた先は、伝言の書き方や置き場所、担当の決め方でした。

ここで、冒頭の会議を振り返ってみましょう。「Aさんの言い方がきつい」で話が止まり、結論が「Aさんに注意しよう」になった。これは、プロブレムフォーカスの原則から見ても、途中で掘るのをやめてしまった状態だといえます。本来なら、「なぜ、Aさんはそういう言い方になるのか」「新人の指導が、なぜAさんに集中しているのか」と、仕組みにまで掘り下げていく必要があります。

では、原則さえ守れば、職場の人間関係もプロブレムフォーカスで改善できるのでしょうか。もちろん、改善できる可能性はあるでしょう。ただ、実はそこに落とし穴があります。人間関係や職場の空気を扱うとき、この原則は守ろうとしても守りにくくなるのです。続いては、その理由を考えてみます。

人間関係の改善では、なぜ矛先が人に向きやすいのか

原因を人ではなく仕組みに求める。頭ではわかっていても、人間関係や職場の空気がテーマになると、なぜか話は人に向かっていきます。理由は、大きく三つあると考えています。

扱っているものが、そもそも「人と人の関わり」だから

折り返し連絡の漏れであれば、原因を伝言メモや担当の決め方に置くことができました。モノや手順が、原因の受け皿になってくれるのです。

ところが、「新人が職場になじめない」「チームの雰囲気がギスギスしている」となると、どうでしょうか。問題そのものが、人と人との間で起きています。原因を探そうとすれば、頭に浮かぶのは「あの人の言い方」「あの人の態度」でしょう。仕組みに置き換えようとしても、話している一人ひとりの頭の中には、具体的な誰かの顔があります。人間関係の問題では、原則を守ろうとしても、原因の受け皿が「人」になりやすいのです。

人間関係の問題は、原因と結果がぐるぐる回っているから

冒頭の会議を、もう一度思い出してみてください。「Aさんの言い方がきつい」という声がありました。これは、新人が辞める原因なのでしょうか。

少し見方を変えてみます。Aさんの言い方がきついので、新人が萎縮して質問しなくなる。質問できないまま動くので、ミスが増える。そのフォローがAさんに回ってきて、Aさんの余裕がなくなる。余裕がなくなるので、言い方がさらにきつくなる。こう並べてみると、どこが始まりなのか、わからなくなってきます。

先輩の言い方がきつくなる、新人が質問できない、ミスが増える、先輩の余裕がなくなる、の4つが矢印で時計回りにつながり、どこが始まりかわからない循環を示した図
人間関係の問題は、原因と結果がぐるぐる回っている。どこか一か所を「真の原因」と決めにくい。

折り返し連絡の漏れのように、原因から結果へ一方向に流れる問題なら、根本の原因をたどっていけます。けれど、人間関係の問題は、原因と結果が互いに影響し合いながら回っています。一か所を「真の原因」と決めて取り除く、という根本解決の発想そのものが、なじみにくいのです。それでも無理に一つに絞ろうとすると、いちばん目立つ人、つまりAさんが「原因」に選ばれてしまいます。

矛先が人に向くと、問題そのものがこじれるから

原因が仕組みに向いているうちは、対策を打てば、それで済みます。伝言メモの書式を変えても、誰も傷つきません。

ところが、矛先が人に向くと、話は変わります。責められた側は、身構えます。言い分もあるでしょう。Aさんにしてみれば、「忙しい中で、新人のフォローまでしているのに」という思いがあるかもしれません。自分のいない場で決まった「注意」を、素直に受け止めるのは簡単ではないはずです。関係を良くしたくて始めた話し合いが、かえって関係を悪くしてしまう。人間関係の問題では、原因探しそのものが、問題を深めてしまうことがあるのです。

さらに、できていないところに目を向け続けるのは、正直、しんどいと思いませんか?仕事の上では、できていない点を見つけて直すことは欠かせません。私もそう思います。ただ、職場の人間関係や雰囲気といった、終わりのないテーマまで、すべてこの進め方で扱おうとすると、会議のたびに「足りないもの」を数えることになります。それでは、話し合う側の気力が先に尽きてしまうでしょう。

例えば、連敗中のサッカーチームなら

この構造は、職場の外に置き換えてみると、わかりやすいかもしれません。連敗が続いているサッカーチームを想像してみてください。

あるチームのミーティングは、毎回、敗因分析から始まります。「あの場面のパスミスが」「守備の連携が崩れた」「あそこで、あの選手が判断を誤った」どれも事実です。けれど、名前を挙げられた選手は、次の試合で、ミスを恐れて無難なプレーしかしなくなる。チーム全体が萎縮して、さらに勝てなくなっていく。

別のチームのミーティングは、こう始まります。「負けはしたけれど、前半の20分は、うちが押していた。あの時間帯、何がうまくいっていた?」選手たちは、うまくいったプレーを思い出し、言葉にしていきます。「あの形なら、また出せる」次の試合では、その形を少しでも長く続けることを狙う。

左は、コーチが戦術ボードのミスを指さして「あのミスは?」と問い、選手たちがうつむいているミーティング。右は、コーチが「何がうまくいった?」と問い、選手たちが前を向いて話し合っているミーティング。2つのチームの会議を左右に対比したイラスト
同じ負け試合の振り返りでも、「あのミスは?」と問うか、「何がうまくいった?」と問うかで、選手の次の動きは変わる。

どちらのチームも、真剣に勝とうとしています。違うのは、目を向けている先です。前者は「できていないこと」に、後者は「すでにできていること」と「次にどうしたいか」に目を向けています。そして、後者の進め方こそが、次にご紹介するソリューションフォーカスです。

ソリューションフォーカスとは? 「望む未来」と「できていること」から始める考え方

ソリューションフォーカス(解決志向)とは、問題の原因ではなく、「どうなったらいいか」という望む未来と、「すでにうまくいっていること」から解決を図る考え方です。原因を突き止めて取り除くのではなく、うまくいっている部分を見つけて、それを少しずつ広げていきます。

心理療法の現場で生まれ、職場へと広がった考え方

ソリューションフォーカスは、もともと心理療法の分野で生まれました。1980年代半ば、アメリカ・ミルウォーキーの短期家族療法センター(Brief Family Therapy Center)で、スティーブ・ド・シェイザーやインスー・キム・バーグらが中心となって形づくったものです。その後、コーチングや組織開発、学校や福祉の現場へと、使われる場が広がっていきました。

出典:Iveson, C.(2002)”Solution-focused brief therapy”, Advances in Psychiatric Treatment, 8, P.149

この考え方の土台にあるのが、「例外」という見方です。どれほど深刻な問題でも、四六時中ずっと起きているわけではありません。問題が起きていない時、少しましな時が、必ずあります。そこに解決の手がかりがある、と考えるのです。

問題がどれほど深刻で、固定的で、慢性的であっても、例外は必ずあり、その例外の中に、その人自身の解決の種がある。

出典:Iveson, C.(2002)同上 P.149(筆者訳。原文:『however serious, fixed or chronic the problem there are always exceptions and these exceptions contain the seeds of the client’s own solution』)

連敗中のチームでいえば、「前半の20分は押していた」が、この例外にあたります。負けた試合の中にも、うまくいっていた時間帯はあったはずです。そこを掘り下げるほうが、敗因を数えるより、次の一手につながりやすいのです。

よく知られる3つの基本ルール

ソリューションフォーカスには、その考え方を端的に表した、よく知られる3つのルールがあります。

  1. うまくいっているなら、変えない(If it ain’t broke, don’t fix it.)
  2. うまくいったことは、もっとやる(If it works, do more of it.)
  3. うまくいかないなら、違うことをする(If it doesn’t work, do something different.)

出典:Cade, B. 『Building Alternative Futures: The Solution-Focused Approach』 P.1
※2つ目のルールは、ソリューションフォーカスの専門家団体の手引きでも「最初期からの主要な原則の一つ」とされています(Trepper, T. S. ほか〈2010〉Solution Focused Therapy Treatment Manual for Working with Individuals, Solution Focused Brief Therapy Association, P.4)

当たり前のことに聞こえるかもしれません。けれど、職場改善の場面では、この当たり前が意外と守られていないのです。

一つ目の「うまくいっているなら、変えない」から見てみましょう。職場改善というと、つい「直すところ」を探しがちです。新しい仕組みを入れ、ルールを変え、やり方を一新する。その勢いで、実はうまく回っていた部分まで手を入れてしまい、かえって混乱を招いてしまう。そのようなことは起きていないでしょうか。改善の第一歩は、壊れていないものを見極めて、そっとしておくことでもあるのです。

二つ目の「うまくいったことは、もっとやる」は、ソリューションフォーカスの中心にある考え方です。新しい施策をゼロから考えるより、すでに効果が出ていることを見つけて、その回数や範囲を少し増やす。そのほうが、確実で、負担も小さく済みます。

三つ目の「うまくいかないなら、違うことをする」は、裏返せば、うまくいかないことを繰り返さない、ということでもあります。「何度言っても、あの人は変わらない」そう感じているなら、同じ言い方を強めるのではなく、やり方そのものを変えてみる合図だと考えてみましょう。

もう一つ、ソリューションフォーカスには、少し意外な前提があります。解決策は、問題の原因と、必ずしも直接つながっていなくてよい、という前提です。専門家団体の手引きでも、「解決策は、特定された問題と必ずしも直接関係していない」と述べられています。新人が定着しない理由を突き止めきれなくても、新人が職場になじめている場面を広げる手は打てる、ということです。

例えば、新人が辞めていく理由は、仕事量なのか、人間関係なのか、仕事との相性なのか、はっきりしないとします。けれど、振り返ってみると、「小さくても、一つの仕事を最初から最後まで任された日は、新人が生き生きしている」ことに気づいた、としましょう。それなら、辞める理由の分析はいったん保留にして、毎日一つだけでも新人が最初から最後までやり切れる仕事を任せてみる。辞める理由とは直接つながっていない一手ですが、新人が手ごたえを感じる場面を、確実に増やすことができます。

原因の特定に時間をかけすぎて動けなくなる、という事態を避けられるのも、この考え方の強みでしょう。

出典:Solution Focused Brief Therapy Association Research Committee(2025)Solution Focused Therapy Treatment Manual for Working with Individuals(3rd ed.)P.5〜6(筆者訳。原文:『Clients’ solutions are not necessarily directly related to identified problems.』)

厚生労働省の職場改善ツールも「解決志向型」をうたっている

カウンセリング生まれの考え方が、職場改善に本当に使えるのか。そう感じた方もいるかもしれません。実は、国が示している職場改善のツールも、同じ発想に立っています。

厚生労働省の「こころの耳」で公開されている「職場改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)」は、従業員の参加のもとで職場環境を改善するために作られたツールです。その使用上の注意には、こう書かれています。

このヒント集は職場環境などの良否をチェックするものではありません。改善のためのよいアイデアや方法を見つけることを目的とする改善・解決志向型のチェックリストです。

出典:厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」職場改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)

同じページには、「できることから改善をはじめることを支援することを目的としています」「職場で一緒に働く従業員同士によるグループ討議などで利用することが効果的です」とも書かれています。良し悪しの点検ではなく、よいアイデアを見つける。できることから始める。そして、職場の仲間と一緒に考える。ソリューションフォーカスの考え方と、ほとんど重なっているのです。

プロブレムフォーカスとの違いを、表で比べる

ここまでの話を、表に整理してみます。私が問題解決の研修で使ってきた比較を、この記事向けに書き直したものです。

 プロブレムフォーカス(問題・原因志向)ソリューションフォーカス(解決志向)
目を向ける先できていないこと、至らない点すでにできていること、うまくいっている点
話の時間軸過去(なぜ起きたのか)未来(どうなったらいいか)
よく出る問い「何が原因か」「誰に原因があるか」「何が使えるか」「どこから手をつけるか」
進み方根本の原因を取り除き、一気に解決をめざす小さな一歩を重ね、少しずつ前に進む
会議の空気責任の所在に話が向くと、重くなりやすいアイデアが出やすく、前向きになりやすい
得意な場面ミスや事故、同じクレームの再発防止人間関係、職場の雰囲気、チームづくり

表の最後の行が、この記事でいちばんお伝えしたいことです。どちらが優れている、という話ではありません。扱うテーマによって、向いている進め方が違うのです。

では、ソリューションフォーカスで職場改善を進めるとき、会議では実際に何をすればいいのでしょうか。続いては、その進め方を順を追って見ていきます。

ソリューションフォーカスで職場改善を進める4つの手順

ソリューションフォーカスを職場改善の会議で使うときは、おおよそ4つの手順で進めます。題材は、冒頭と同じ「新人が定着しない」にしてみましょう。

望む未来を描く、今を採点する、できていることを探す、0.5点だけ上げる一手を決める、の4つの手順を左から順に並べ、それぞれが10点満点の目盛りのどこに当たるかを示した図
原因ではなく、望む未来から出発し、0.5点ずつ近づいていく。

手順1 望む未来を、場面で描く

最初に考えるのは、「なぜ辞めるのか」ではなく、「新人が定着している職場は、どんな様子か」です。ソリューションフォーカスでは、よくこんな問いを使います。

明日の朝、目が覚めたら、奇跡が起きて、すべてが望みどおりにうまくいっているとします。そのとき、最初に気づく小さなサインは何でしょうか。

出典:sfwork「Solutions Focus」(筆者訳。原文:『Suppose… that you wake up tomorrow and suddenly and miraculously, everything is working the way you want…what would be the first tiny signs that would tell you?』)

ここでのコツは、「雰囲気がいい」「風通しがいい」といった言葉で止めないことです。人によって思い浮かべるものが違うからです。「新人が、わからないことを、その場で先輩に聞けている」「新人が、休憩中に先輩と雑談している」そこに居合わせた人なら誰でも「できている」とわかる場面まで、具体的に描いてみましょう。

手順2 今を、10点満点で採点する

描いた未来を10点としたら、今は何点か。一人ひとりに点数をつけてもらいます。

このとき、点数そのものに正解はありません。大切なのは、多くの場合0点にはならない、ということです。3点でも4点でも、0点ではない以上、どこかに「できていること」があるはずです。また、人によって点数がずれることもよくあります。そのずれは、見えている景色が違うという、話し合いの入口になります。

手順3 すでにできていることを探す

次に問うのは、「なぜ、0点ではないのか」です。「3点をつけた理由は何ですか?」「その3点分のできているところは何でしょう?」と聞いていきます。

すると、「Bさんは、新人に自分から声をかけている」「週に一度の振り返りの時間は、新人も話しやすそうだ」といった答えが出てきます。これが、先ほどお話しした「例外」であり、職場がすでに持っている資源です。ここで見つかったものは、変えずに残し、できればもっと増やしていきます。基本ルールの「うまくいっているなら、変えない」「うまくいったことは、もっとやる」を、そのまま会議で実行している状態です。

この手順は、冒頭の会議と比べると違いがよくわかります。「Aさんの何が問題か」ではなく、「新人が定着しやすくなる要素や場面は、どこにあるか」を探す。同じ職場を見ていても、会議の空気は大きく変わるはずです。

手順4 0.5点だけ上げる一手を決める

最後に、「あと0.5点上げるには、何があればいいか」を考えます。10点を目指す大きな計画ではなく、明日からすぐにできる、ごく小さな一手です。

例えば、新人がよく「これ、どうやるんでしたっけ」と先輩に聞いている職場があるとします。マニュアルは、ある。けれど、事務所の棚の奥にしまわれていて、新人は取りに行きにくい。そこで、マニュアルの中身には手をつけず、置き場所だけを、作業をする場所のすぐ横に移してみる。これくらいの小ささで十分です。

なぜ、そこまで小さくするのでしょうか。小さな一手は、すぐに実行でき、すぐに結果が見えるからです。専門家団体の手引きでも、小さな変化の積み重ねが、より大きな変化につながるとされています。0.5点が一つ実現すると、「じゃあ、次はこれもできそう」と、次の一手が出てきやすくなるのです。

出典:Solution Focused Brief Therapy Association Research Committee(2025)Solution Focused Therapy Treatment Manual for Working with Individuals(3rd ed.)P.5〜6(原文:”Small increments of change can lead to larger increments of change.”)

そして、この4つの手順は、管理職が一人で進めるものではありません。点数をつけるのも、できていることを探すのも、一手を考えるのも、部下と一緒に行います。管理職の頭の中にある答えを先に出すのではなく、まず部下の点数と言葉を聞いてみる。そこから、巻き込みが始まっていきます。

部下への問いかけ方や、12の具体的な基準を使った進め方は、こちらの記事で詳しくお話ししています。

辞めたくない職場の作り方|管理職が一人で抱えないための思考法
賃上げをしても、人は辞めていく。辞める理由の多くは、管理職一人では動かせないものです。鍵は、部下を巻き込んで「辞めたくない職場」を一緒につくること。4つの欲求と解決志向で、明日から始める具体策を現役研修講師が解説します。

「全員で笑顔の挨拶を」は、なぜ続かないのか。小さな一手が人を巻き込むまで

新人の定着をテーマに話し合うと、かなりの確率で出てくるアイデアがあります。「まずは、全員が笑顔で挨拶するところから始めよう」反対する人は、まずいないでしょう。挨拶が大事なことは、誰もがわかっています。

けれど、実際にやってみると、どうでしょうか。私にも、そう呼びかけて、全員には広がらなかった経験があります。最初の数日は意識していても、忙しい日が続くと元に戻っていく。言い出した側も、何度も繰り返し言うのは気が引ける。そうして、いつの間にか話題にも上らなくなっていきました。

「全員が、いつも、笑顔で」は、一手として大きすぎた

なぜ続かないのでしょうか。やる気がないからではない、と私は考えています。一手として、大きすぎるのです。

「全員が」「いつも」「笑顔で」挨拶する。これは、0.5点どころか、一気に1点も2点も上げようとする一手です。考えてみれば、全員が毎日、笑顔で挨拶を交わせている職場なら、そもそも新人の定着に、ここまで困っていないのかもしれません。できていないからこそ課題になっているのに、そのいちばん難しい姿を、最初の一歩にしてしまっているのです。

もう一つ、見落としやすい落とし穴があります。「笑顔で」という基準は、人によって判断が分かれるという点です。挨拶はしたけれど、笑顔だったかどうか。そこは、見る人によって変わります。すると、しばらくして、こんな声が出てくるかもしれません。「Aさんは、挨拶はするけど、笑顔じゃないよね」

お気づきでしょうか。職場をよくするために決めた一手が、いつの間にか「できていない人」を探す物差しになり、話がまた一人の社員に戻ってしまうのです。冒頭の会議と、同じ構図です。

人・場面・行動で小さく切り分ける

では、「全員で笑顔の挨拶」は、あきらめたほうがいいのでしょうか。そうではありません。0.5点の大きさまで、小さく切ればいいのです。切り方には、コツが三つあります。

  • 人を絞る……「全員」ではなく、その日の新人の教育担当、一人だけにする
  • 場面を絞る……「いつも」ではなく、新人が出勤してきた、そのときだけにする
  • 見てわかる行動にする……「笑顔で」ではなく、「名前を呼んで挨拶する」にする

三つを組み合わせると、「新人が出勤したら、その日の教育担当が、新人の名前を呼んで『おはようございます』と迎える」という一手になります。

全員をその日の教育担当1人に、いつもを新人の出勤時に、笑顔でを名前を呼んで挨拶に、それぞれ小さく切り替える図
人・場面・行動を絞ると、大きな一手は0.5点の一手になる。

これなら、やることは一日一回、担当者一人だけです。名前を呼んだかどうかは、その場にいれば誰にでもわかります。できたかどうかで、誰かが責められることもありません。そして、出勤してすぐに自分の名前を呼ばれることは、新卒でも中途でも、新人にとって「ここに自分を待っている人がいる」と感じられる、小さくても確かなきっかけになるはずです。

「がんばろう」より、環境を少し変える

0.5点の一手には、もう一つの作り方があります。人の心がけに頼るのではなく、環境を少しだけ変える、という作り方です。先ほどのマニュアルの置き場所も、これにあたります。

新人の定着を題材にすると、例えば、こんな一手が考えられます。

  • 先輩社員の座席表に、顔写真をつけておく……新人がよくつまずくのが、先輩の顔と名前がなかなか一致しないことです。名前がわからなければ、声をかけることもためらわれます。常に名札をつけている職場でなければ、試してみる価値があるでしょう(写真の掲示は、先輩本人の了承を得てから行いましょう)。
  • よく使う備品の置き場所に、名前のラベルを貼る……新人が、人に聞かなくても自分で探せるようになります。「どこにありますか」と聞くたびに、忙しい先輩の手を止めてしまう。その気がねが一つ減ります。
  • 新人の机に、「わからないことメモ」用の付箋を置いておく……その場で聞けなかった疑問を書き留めておき、手が空いたときにまとめて聞けるようにします。
  • 業務チャットに、新人が質問できる場所を一つつくる……口頭では聞きにくいことも、文字なら聞けることがあります。答えが残るので、次の新人の役にも立ちます。
  • タイムカードの横に、「今日、困ったときに聞く人」のマグネットを貼る……誰に聞けばいいか、出勤した瞬間にわかります。

どれも、誰かに「もっとがんばろう」と求める一手ではありません。新人にも先輩にも、新しい負担はほとんど増えません。気合いや心がけではなく、望ましい行動が自然に出やすい環境を、少しだけ整える。だから続きやすく、しかも、できなかったときに責められる人も生まれないのです。(入口に鏡を一枚置くといった、同じ発想の一手は、関連記事でも紹介しています。)

小さな成功が、次のアイデアを生む

0.5点の一手には、もう一つ、大きな力があります。人を巻き込む力です。

例えば、先輩の顔写真つき座席表を貼ってみたとします。数日たって、新人が先輩を名前で呼んで質問している場面を、誰かが見かける。「あれ、効いてるね」すると、今度は部下から声が上がります。「せっかくなら、先輩ごとに得意な業務も書いておきませんか」「質問チャットによく出る質問は、マニュアルに足しておきましょうか」

管理職が考えて、指示して、実行させたのではありません。小さな一手が形になり、職場が少しよくなったのを見て、部下が自分からアイデアを出し始めたのです。自分の出したアイデアが形になれば、それはもう「やらされる改善」ではなく「自分たちの改善」です。このとき、アイデアを出した人を、ぜひ言葉にして認めてみましょう。それが、次のアイデアを生み続ける好循環のきっかけになります。

もちろん、すべての一手がうまくいくわけではありません。そのときは、基本ルールの三つ目、「うまくいかないなら、違うことをする」の出番です。うまくいかなかったのは、誰かのせいではなく、その一手が、この職場に合わなかっただけです。「じゃあ、次は何を試そうか」と前を向けばいいのです。一つひとつが小さいからこそ、失敗しても痛くありません。だから、また試せるのです。

そうして0.5点を一つ、また一つと重ねていった先に、ふと気づくと、新人に笑顔で挨拶することが、職場の当たり前になっているかもしれません。最初に掲げて続かなかった「全員で笑顔の挨拶」は、実は、小さな一手を積み重ねた先にある姿だったのです。

原因を探すか、解決を描くか。2つの進め方の使い分け

ここまで、ソリューションフォーカスを中心にお話ししてきました。ただ、プロブレムフォーカスを手放そう、という話ではありません。大切なのは、テーマに合わせて使い分けることです。

原因を「人以外」に置けるかどうかで使い分ける

目安になるのは、原因を「人以外」に置けるかどうかです。

集計ミスや引き継ぎ漏れ、同じクレームの繰り返しのように、原因から結果へ一方向に流れ、原因を手順や仕組み、モノに置ける問題なら、プロブレムフォーカスが力を発揮します。根本の原因を取り除かないかぎり、同じことが繰り返されるからです。

一方で、新人のなじみにくさ、チームの雰囲気、世代間のすれ違いのように、人と人との関わりそのものがテーマで、原因と結果がぐるぐる回っている問題なら、ソリューションフォーカスが向いています。正解が一つに決まらず、みんなの協力がなければ前に進まないテーマでもあります。

実際の職場改善では、一つのテーマの中に、両方が混ざっていることも少なくありません。新人の定着という同じテーマでも、「マニュアルの内容が古い」はプロブレムフォーカスで原因をたどって直せばいい。「先輩に質問しにくい」は、ソリューションフォーカスで、できている場面から広げていく。そんなふうに、話題ごとに切り替えていけばいいのです。

切り替えの合図も、一つ覚えておくと便利です。会議の中で、発言の主語が「誰が」「あの人が」になり始めたら、それは原因探しが人に向かい始めたサインです。そのときは、いったん立ち止まって、問いを「どうなったらいいか」「どこならうまくいっているか」に戻してみましょう。

Aさんの会議を、ソリューションフォーカスでやり直すと

では、冒頭の会議を、ソリューションフォーカスでやり直してみます。議題は同じ「新人が定着しない」です。

管理職と主任たちが、望む未来、10点満点の採点、できていること、0.5点の一手の順に話し合い、Aさんが問題の人から職場の資源へと見え方が変わる様子を描いた4コマの図
同じ会議でも、問いを変えると、Aさんは「問題の人」から「職場の資源」に変わる。

管理職が、最初にこう問いかけます。「新人が定着している職場って、どんな様子だと思う?」少し間があって、声が上がります。「わからないことを、その場で聞けている」「先輩を名前で呼んで、質問している」

「それを10点とすると、今のうちは何点くらいかな?」主任たちの答えは、3点から5点に分かれました。「じゃあ、0点じゃない理由は? 何ができているんだろう」

すると、こんな声が出てきます。「Bさんは、休憩のときに新人に声をかけている」そして、別の主任が、少し考えてから言いました。「Aさんって、言い方はきついけど、新人が困っていると、真っ先に気づいて手伝っているんだよね」

ここが、最初の会議との大きな違いです。原因探しの会議では「問題の人」だったAさんが、できていることを探す会議では、職場の「資源」の一人として名前が挙がっています。同じAさんを見ていても、どこに目を向けるかで、見えるものがこれほど変わるのです。

「あと0.5点上げるなら、何ができそう?」しばらく話すうちに、こんな意見が出ました。「新人の質問が、Aさんに集中している気がする。Aさんも忙しいし、質問用のチャットをつくって、手の空いている人が答えるようにしてみたら」

この一手は、Aさんを責めていません。それでいて、Aさんに集中していた負担を、チーム全体で少しずつ分け合う形になっています。Aさんに余裕ができれば、言い方がきつくなる、あの循環も、少しずつ緩んでいくかもしれません。

念のために補足しておきます。ソリューションフォーカスは、問題のある言動を見て見ぬふりをする、という意味ではありません。もし、ハラスメントにあたるような言動があるなら、それは会議の場ではなく、事実を確かめたうえで、本人と個別に向き合うべきことです。個人への対応と、職場全体の改善を、同じテーブルに載せない。この切り分けも、会議を犯人探しにしないための、大切な工夫だと思います。

まとめ:職場改善は、部下と一緒に、小さく始める

職場改善の進め方というと、問題を見つけ、原因を突き止め、取り除く、という流れが思い浮かびます。この進め方は、ミスや事故の再発防止には欠かせません。ただ、人間関係や職場の空気をテーマにすると、原因探しは人に向かいやすく、会議はいつの間にか犯人探しにすり替わるリスクが高まります。

そんなときは、ソリューションフォーカスに切り替えてみましょう。望む未来を描き、今を10点満点で採点し、すでにできていることを探し、あと0.5点上げる一手を決める。その一手は、「全員で笑顔の挨拶」のような大きな目標ではなく、マニュアルの置き場所を変える、先輩の座席表に顔写真をつける、といった、拍子抜けするくらい小さなもので構いません。

そして、この4つの手順を、管理職が一人で抱える必要はありません。答えを一人で用意するのではなく、部下と一緒に点数をつけ、できていることを探し、小さな一手を決めていく。小さな成功が見えれば、次のアイデアは、部下の中から自然に生まれてきます。それが、周りを巻き込みながら職場を良くしていく、いちばん確かな道なのではないでしょうか。

「会議が、どうしても原因探しや犯人探しになってしまう」「職場改善を、管理職だけで抱え込んでいる」そんな状況に心当たりがあれば、一度ご相談ください。管理職研修の中で、ソリューションフォーカスを使った改善の進め方を、実際のテーマで体験していただくこともできます。現場の状況にあわせて、何から始めるのがいいか、一緒に考えます。

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