研修をしても、数週間、数か月と経つうちに、いつの間にか元どおりに戻っている。
そのような経験はありませんか?
現場の管理職の伝え方が悪かったのか。受講したメンバーの意識が低いのか。それとも、研修そのものに意味がなかったのか。原因を探ろうとしても、どれも当てはまる気がして、はっきりしない。研修を発注する立場の方から、こうした声をよく聞きます。
近年、人的資本経営という言葉とともに、人への投資が重視されるようになりました。研修にかける費用も、以前より増えています。ですが、投資と呼ぶのであれば、そのお金が現場での変化として成果に繋がっているかが問われるはずです。「成果に繋がっている」と自信をもって言える研修は、どれだけあるでしょうか。
先に、一つだけお伝えしておきます。この記事は「研修は効果がある」と言いたいわけでも、「研修は無駄だ」と言いたいわけでもありません。研修を提供している私自身が、効果の出ていない研修は少なくない、と考えています。提供する側の人間がそう言うのは妙に聞こえるかもしれません。ですが、効果が出ない研修には、はっきりした理由があります。そして、その理由の多くは、受講者でも現場でもなく、研修の組み立て方の側にあります。
この記事では、研修のあと、なぜ元に戻ってしまうのかを、研修を提供する側の問題として捉え直します。そのうえで、忙しい現場でも学んだことが続く組み立て方を、具体的な一手までお見せします。読み終えたとき、研修を「やって終わりの一回きり」ではなく「現場で使われ続けるもの」に変えるための、考え方の軸を持ち帰っていただけるはずです。
「研修は効果がない」——その原因を、受講者や現場に求めていませんか
まず、知っておいていただきたいことがあります。研修が現場に定着しないという悩みは、あなたの職場だけのものではありません。
能力開発や人材育成に関して、何らかの問題があるとする事業所は80.1%。問題点の内訳は「指導する人材が不足している」が59.5%、「人材を育成しても辞めてしまう」が51.6%、「人材育成を行う時間がない」が45.5%と続いている。
出典:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(2026年)事業所調査 図35・図36 調査結果(公表ページ)
8割の事業所が、人材育成に何らかの問題を抱えています。これは、特定の職場の努力不足ではなく、多くの現場に共通して起きていることです。
それでも私たちは、研修が定着しないとき、つい原因を受け手の側に探します。受講したメンバーのやる気が続かなかった。現場が忙しくて実践する余裕がなかった。上司がフォローしなかった。どれも、思い当たる節があるでしょう。
ですが、この見方には落とし穴があります。
やる気も、現場の忙しさも、研修を提供する側からはほとんど動かせません。原因をそこに置いたままでは、「次はやる気のある人に受けさせよう」「現場がもう少し落ち着いたら」と、自分では手の出せないものを待ち続けることになります。研修をしても、また同じように元へ戻る。その繰り返しから抜け出せない現場は少なくありません。
現場には現場の事情があります。それは事実です。ですが、環境のせいにした瞬間、研修を提供する側にできることは何もなくなってしまいます。
視点を変えてみます。同じ研修を、同じように受けても、そのあと現場で使われるものと、使われずに消えていくものがあります。その差は、受講者のやる気だけで決まっているのでしょうか。それとも、研修の組み立て方の側に、続くかどうかを分けている何かがあるのでしょうか。
次の章で、私が実際にやってしまった、効果の出なかった研修の話をさせてください。
効果が出なかった研修の話——「実際にやってみましたか」への苦笑い
介護施設の主任・副主任の方々を対象にした、問題解決の研修でした。現場で何か問題が起きたとき、すぐに対策へ走らず、まず「本当に解くべき問題は何か」「なぜそれが起きているのか」を考える。いきなり手を打つのではなく、原因を掘ってから動く。それを身につけてもらう内容です。
研修そのものは、うまくいったように見えました。受講者の方々は前向きで、ワークにも熱心に取り組んでくれました。終了後のアンケートも好評でした。手応えを感じて、その場を後にしたことを覚えています。
その施設からは、毎年研修のご依頼をいただいていました。翌年、続編にあたる研修でお邪魔したときのことです。前年の内容にふれて、「実際に現場でやってみましたか」と尋ねたところ、返ってきたのは、苦笑いでした。
言葉にはしにくそうでしたが、その表情で伝わってきました。やっていない。あるいは、やろうとしたけれど続かなかった。念のためにと練習のワークをやってもらうと、はっきりします。前年に伝えたはずのやり方は、身についていませんでした。
好評だったはずの研修が、一年後には残っていない。実は、この落差は私一人の経験にとどまりません。
令和6年度に受講したOFF-JT(通常の仕事を離れて行う研修)が「役に立った」とした労働者は96.0%。一方、能力開発や人材育成に問題があるとする事業所は80.1%にのぼる。
出典:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(2026年)個人調査 図73/事業所調査 図35 調査結果(公表ページ)
受けた直後は、ほとんどの人が「役に立った」と感じます。それでも、多くの職場では人材育成の問題が消えていません。研修の場での満足度と、現場で実践するかどうかは、別の話なのです。あの日の私が受け取った好評も、翌年の苦笑いも、この二つの数字の間に起きていたことなのだと、いまは思います。
そのときは、できるかぎり表情や態度には出さず、受講者が責められていると感じないように努めた記憶があります。ですが内心では、静かに動揺していました。
なぜだろう、と考え込みます。受講者の方々のやる気が足りなかったのか。そうは思えません。あれだけ前向きに取り組んでくれた方々です。では、現場が忙しすぎたのか。それも、確かにあったでしょう。介護の現場は、一つの問題にじっくり向き合う時間を取りにくい場所です。
ただ、これは介護にかぎった話ではありません。営業であれば、次から次に顧客の対応が続きます。コールセンターなら、ひっきりなしに電話が鳴ります。業種を問わず、目の前の「やらなければならないこと」が途切れない職場は珍しくないでしょう。腰を据えて考える時間を取りにくいのは、どの現場にも共通する事情です。
当時の私は、どうすれば効果が出るのか、どうすれば研修の意味を高められるのか、試行錯誤していた時期でした。ですが、原因を現場の忙しさに求めているかぎり、提供する側の私にできることは何もありません。「忙しくなければ続いたはずだ」と言ったところで、現場の忙しさが変わるわけではないのですから。
問い方を変える必要がありました。忙しい現場は、変えられない前提とする。そのうえで、それでも残る研修にするために、私に何ができたのか。そう考えたとき、原因は現場ではなく、自分の組み立て方の側に見えてきたのです。
効果が出ない正体は、「全部を渡して、あとは現場に任せた」こと
研修で学んだことは、現場ではどう現れるか。多くの場合、それは「これまでのやり方への上乗せ」として現れます。
問題が起きたとき、すぐ対策に走らず、まず原因を掘る。研修ではそう学びます。ですが、この新しいやり方は、慣れるまで時間がかかります。これまでなら数分で「じゃあこうしよう」と動けたものが、一度立ち止まって考える分だけ、手間も時間も増える。つまり、学んだことは現場に戻った瞬間、負荷になるのです。
そして人は、負荷の高いやり方より、低いやり方に戻ります。
「これまでのやり方の方が早いし、楽だ」。責める話ではありません。目の前の業務が途切れない現場で、わざわざ時間のかかる新しい方法を選び続けるのは、それだけで大変なことです。慣れた手順に戻っていくのは、むしろ自然な反応でしょう。加えて、周囲から「そんなに時間をかけず、これまで通りでいい」という空気が向けられることも、時にはあります。こうして、せっかく学んだやり方は、少しずつ使われなくなっていきます。
腰を据えて考える時間が取りにくいのは、特定の職場の事情ではありません。
能力開発や人材育成に関する問題点として、「人材育成を行う時間がない」を挙げた事業所は45.5%。「指導する人材が不足している」(59.5%)に次ぐ多さとなっている。
出典:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(2026年)事業所調査 図36 調査結果(公表ページ)
半数近くの事業所が、人を育てる時間そのものが足りないと答えています。つまり、学んだことを現場で実践する余裕がないのは、どこかの職場が怠けているからではなく、多くの現場に共通する前提だということです。だとすれば、その前提の上で残る研修をどう組み立てるかを考えるほかありません。
ここで問いたいのは、誰が悪かったのか、ではありません。
受講者は、自然な反応をしただけです。現場は、いつも通り忙しかっただけです。だとすれば、残らなかった原因は、その負荷を現場が受け止められる形にしないまま、「あとは現場でやってください」と全部を渡してしまった組み立て方にあります。
私の失敗も、まさにこれでした。問題解決の手順を一通り教え、あれもこれも大事だと伝え、実践は現場に委ねました。よかれと思って全部を渡したのです。ですが、全部を渡すというのは、裏を返せば、どれを最初の一歩にするかも、どう続けるかも、すべて受講者任せにしたということです。負荷の高いものを丸ごと預けられて、忙しい現場で一人で続けられる人は、そう多くありません。
研修が現場で残るかどうかは、内容の良し悪しだけでは決まりません。その内容を、現場が受け止められる形にまで整えて渡せているか。ここが、効果の分かれ目になります。
現場で生き残るサイズまで、「刻んで、選ばせる」
では、どう組み立てれば、研修は現場に残るのか。
効果のある研修に必要なものは、突き詰めると三つだと考えています。一つ、「これならできそうだ」という実感。二つ、実際にできる具体的な方法。三つ、「やってみよう」という動機づけ。この三つが揃ったとき、学んだことは現場で動き始めます。逆に言えば、前の章で紹介した私の失敗は、この三つのどれも十分に用意できていませんでした。手順を全部渡しただけで、できそうな実感も、最初の一手も、やってみたいという気持ちも、受講者任せにしていたのです。
そこで、組み立て方を変えます。といっても、教える中身を減らすわけではありません。問題解決の考え方の全体像は、これまで通りしっかり見せます。変えるのは、その見せ方です。全体像を示したうえで、「この中で、これだけなら明日の現場でもできる」という最小の一手を、はっきり切り出して渡すのです。
全体像を省いて、便利な一手だけを渡してはいけません。なぜその一手が効くのか、どう応用すればいいのかが分からなくなり、結局その場かぎりで終わってしまいます。全体が見えているからこそ、一手の意味が分かる。一手が具体的だからこそ、「これならできそうだ」という実感が強くなる。この両方が要ります。
たとえば、こういうものです。問題が起きて、つい「じゃあこうしよう」と対策を口にしそうになったとき…一瞬だけこらえて、頭の中で一度だけ「なぜ、それが起きているのか」と問い直す。それだけです。会議を開く必要も、腰を据える時間も要りません。数十秒、心の中で問うだけ。周りから見れば、いつも通り仕事をしているようにしか見えません。
たったこれだけでも、出てくる対策は変わります。「人手が足りない、だから採用しよう」で止まっていたところに、もう一度「なぜ足りないのか」を挟む。すると「定着が悪いからだ」「新人が孤立しているからだ」と、別の景色が見えてくる。打つ手が変わります。
そして、渡すのは一つではありません。こうした小さな一手をいくつか見せたうえで、「どれを持ち帰るかは、皆さんが決めてください」と選んでもらいます。どの一手が自分の現場で生き残るかは、その現場を一番よく知っている本人にしか分かりません。講師が「これをやりなさい」と決めた瞬間、それは再び上乗せの負荷になります。自分で選んだものなら、続ける理由が本人の中にあります。この「選んでもらう」こと自体が、三つ目の動機づけにもなるのです。
一つでいいのか、と思われるかもしれません。ですが、ここに大事な仕掛けがあります。
全体像だけを渡して「あとは全部やってください」と委ねると、受講者は「これを全部やらなければいけないのか」と身構えます。そして、やろうとして力尽きるか、初めから実行を諦めてしまう。どちらにしても、残るものはありません。ですが、たった一つでも実践できて、「やってみたら、少し良くなった」という手応えが生まれると、次が変わります。「同じやり方で、研修で聞いたあれも足してみようか」と、二つ目が自分から乗ってくるのです。一つ目が、二つ目を呼び込む。刻むのは、学びを減らすためではありません。全体像を見せたうえで一歩目を確実に着地させ、そこから先を現場で育てていくためです。
「全部やらなければ」と思わせて力尽きさせるか。全体像を見せたうえで、一つを確実に残して広げていくか。同じ研修でも、この組み立ての違いが、一年後に残るかどうかを分けます。
前後に手をかけられるなら、そこにも「刻む」を広げる
ここまで、研修そのものの中で刻んで渡す話をしてきました。これは、どんな現場でも効かせるための土台です。そのうえで、もし研修の前後にも手をかけられるなら、やった方がいいことは確かにあります。
研修の効果は、当日だけでは決まらない。研修の前の準備と、後のフォローが合わせて大きな比重を占める、という考え方は広く知られています。前後で八割、当日は二割、といった配分で語られることもあります。事前に「なぜこの研修を受けるのか」を伝えて準備してもらい、事後に実践できているかを振り返る。こうした前後の働きかけが効果を高めるという指摘は、その通りだと思います。できるなら、やった方がいい。
以前は、この前後の設計そのものに手間がかかりました。いまは、生成AIに研修の内容を渡せば、事前課題や振り返りシートのたたき台くらいはすぐに出てきます。設計にかかる負荷は、確かに下げられる時代になりました。
ただ、ここに落とし穴があります。設計案は作れても、それを実行するのは人間だということです。
たとえば、事後のフォローを現場の上司に依頼するとします。案としてはきれいに描けます。部下の実践を確認し、声をかけ、振り返りに付き合う。それは本来、上司が担うべき大切な役割でもあります。ですが、通常の業務に加えてそれをまるごと上乗せすれば、量として無理が出ます。負担の大きさを計算に入れずに「フォローをお願いします」と渡せば、前の章で見たのと同じことが、今度は上司の側で起きます。負荷が高すぎて、続かないのです。
そもそも、前後にじっくり手をかけられる企業ばかりではありません。年間に何十本と研修を回している現場で、その一本一本に事前・事後の設計を組むのは、現実にはかなり難しいことです。研修を増やしすぎた結果、現場から「研修ハラスメント」と揶揄される、という話も耳にしたことがあります。よかれと思って前後を足していくことが、いつのまにか現場への負荷になっていく。ここにも、同じ落とし穴があります。
だからこそ、順番が大事だと考えています。まず、研修そのものの中に、前後がなくても一つは残る仕組みを組み込む。これが土台です。そのうえで、前後に手をかけられる余力があるなら、そこにも同じ「刻む」という考え方を持ち込む。事前も事後も、上司や受講者が負担なくこなせるサイズまで刻んで渡す。土台があって、その上に無理のない上積みを重ねる。この順番なら、前後の設計が新たな負荷になることはありません。
たとえば、研修で「対策の前に一度なぜと問う」という一手を持ち帰ってもらったなら、事後に、「相談や報告に来た受講者に『なぜ?と深掘りしたか』を一言尋ねる」または、「月に一度の面談で『あの問いを使えた場面はあった?』と確認する程度で十分です。新しい仕組みを足すのではなく、すでにある会話や面談に、研修の一手をそっと乗せる。これなら現場の負担はほとんど増えません。
前後の「できること」を、講師と一緒に決める
ここまで読んで、こう感じた方もいるかもしれません。前後の設計も、刻んで渡す工夫も、結局は研修を提供する側しだいではないか、と。その通りです。だからこそ、最後にお伝えしたいことがあります。
前後に何ができて、何をやった方がいいのか。これを、発注する側だけで抱え込む必要はありません。研修を担当する講師と、一緒に決めればいいのです。
多くの場合、講師は研修当日の担当者として扱われます。前の準備は人事、後のフォローは現場、当日だけが講師の仕事。そうやって担当を分けてしまうと、講師は目の前の一日をこなすことに集中します。ですが、それでは研修は当日だけの点になります。前とも後ともつながらない、切り離された一日です。
事前に、現場でいまどんな問題が起きているのか、受講者がどんな状況に置かれているのかを講師が知っていれば、当日に扱う例も、渡す一手も、その現場に合わせて選べます。事後にどこまでフォローできるのかが分かっていれば、当日の内容を「ここは研修で完結させ、ここは現場で続けてもらう」と設計し分けられます。前後を知ることは、講師にとって、当日の中身そのものを良くすることなのです。
私自身、あの介護施設での失敗のあとに変えたのは、まさにここでした。もともと、研修の前には営業が現場へヒアリングを行い、どんな課題があるかを聞き取っていました。そこで得た現場の状況を、より具体的に受け取り、当日に活かす。研修の中でも、受講者自身に『どこまでなら無理なく続けられそうか』を見極めてもらう時間を、意識して設けるようにしました。
本来なら、事後にどこまでフォローできるかを、発注する側とも事前にすり合わせておけると、なお良いのだと思います。前の準備、当日の中身、後のフォロー。この三つが互いを知ったうえで組まれていれば、研修は一連のものとしてつながります。当時の私は、まだそこまで届いていませんでした。ですが、やっていたことの質を高め、扱う範囲を少しずつ広げていくなかで、持ち帰ってもらえる度合いは確かに変わっていきました。
まとめ——研修が残るかどうかは、組み立て方で決まる
研修をしても元に戻ってしまう。その原因を、受講者のやる気や、現場の忙しさに求めているかぎり、打つ手は見つかりません。動かせないものを待ち続けることになるからです。
視点を変える。学んだことは、現場では「これまでのやり方への上乗せ」として現れ、放っておけば負荷の低い元のやり方に戻っていく。これは自然なことです。だとすれば、その負荷を現場が受け止められる形にまで整えて渡せているかどうかが、残るか消えるかを分けます。
やることは、全部を渡して力尽きさせないことです。全体像は見せたうえで、「これだけなら明日の現場でもできる」という一手にまで刻む。どれを持ち帰るかは、現場を一番知っている本人に選んでもらう。一つが残れば、そこから二つ目が自分から乗ってきます。前後に手をかけられるなら、そこにも同じ刻む発想を広げ、前の準備・当日・後のフォローを、発注する側と講師で一緒に組む。
研修が効くかどうかは、時間の長さでも、受講者のやる気でもありません。現場で確実に実践し続けられるサイズまで組み立てられているか。ここに、投資した研修を回収できるかどうかがかかっています。
もし、自社の研修が「やって終わり」になっていないか、一度立ち止まって見直したいと感じたら、その組み立て方から一緒に考えることもできます。研修そのものだけでなく、その前後をどうつなぐかも含めて、お気軽にご相談ください。


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