「介護・福祉の新人定着は受け入れ方で決まる|採用面接から独り立ちまでの5ステップ」

人材定着

採用に時間とコストをかけてようやく入ってきた新人が、数週間、あるいは数ヶ月で辞めていく。そんな経験が続いている職場は少なくないでしょう。

定着できる職場とそうでない職場の違いは、「歓迎する気持ち」の有無や「待遇」だけではありません。安心感・歓迎されている実感・緊張と緩和のバランスという3つの原則に沿って、採用面接から独り立ちまでの各場面で、具体的な行動を積み重ねているかどうかです。

この3原則については以下の記事で詳しく解説しています。

介護・福祉の新人定着を阻む「悪循環」の正体と、管理職が今日からできること
新人が定着しない職場には共通する構造があります。介護・障がい・保育の研修現場から見えてきた「神対応・塩対応」の違いと、悪循環を断ち切るための管理職の具体的な動き方を解説します。

今回は、その実践編として、採用面接・初出勤前・初日・2日目以降・独り立ち直前という5つのステップごとに、管理職として押さえておきたいことを、具体的にお伝えします。

「そこまでやらなければいけないのか」と感じる方もいるかもしれません。ただ、やらずに辞められるよりも、1つでも2つでも取り入れて辞める可能性を減らす方が、結果として職場全体の負担は軽くなるはずです。

採用面接は「選ぶ場」から「選ばれる場」へ

採用難易度の指標である有効求人倍率は、高齢者(介護保険施設以外)では8倍超、介護保険施設でも3倍超、障害・保育分野でも2倍を超えています。これは、面接に来た1人が、同時に複数の事業所に応募している可能性が高いということです。

福祉分野別の有効求人倍率一覧表。高齢者(介護保険施設以外)8.13倍、高齢者(介護保険施設)3.05倍、障害者2.67倍、児童(保育所)2.88倍。出典:全国社会福祉協議会 中央福祉人材センター「福祉人材センター・バンク職業紹介事業 四半期報告書(令和7年1〜3月)」
福祉分野の有効求人倍率はいずれも2倍を超えています。面接に来た方は、複数の事業所を比較している可能性が高いと考えておきましょう。

かつての面接は「私たちが選ぶ場」でした。しかし、今は面接に来た方が複数の選択肢の中から「選ぶ」時代になっています。こうした採用市場の現状については、管理者や一部のリーダー層だけでなく職員全員で共有しておきたいものです。

面接の場をどう演出するか。3原則に沿った受け入れは、「選ばれる側」だと認識することから始まっています。

面接の環境を整える

面接の環境設定に、特別な大きなコストは不要です。しかし「準備された空間」かどうかは、応募者が肌で感じ取るものです。同じ日に複数の事業所を回っている応募者にとって、こうした差は好印象として記憶に残ります。以下のチェックリストを参考に、面接前に確認してみましょう。

面接環境の確認チェックリスト5項目をアイコンとともに示したインフォグラフィック
面接前に5項目を確認するだけで、応募者の第一印象は大きく変わります。

応募者から「選ばれる側」であると考えたとき、応募者は「来客」にあたります。利用・入居を検討する見学者などの「来客」を迎えるときと同様に準備を整えましょう。特に最後の項目は見落とされやすいポイントです。廊下ですれ違う職員から笑顔で挨拶があるかどうかは、応募者が職場の雰囲気を判断する材料になっています。

条件・要望を明確にする

「おいおい決めましょう」「詳細は入ってから」という言葉は、応募者に不安を与えます。仮に、入職したとしても、後々のトラブルに繋がり、早期離職の要因になります。勤務条件・休日の取り方・残業の有無・OJT期間の長さといった事項は、面接の段階で可能な限り明確に伝えましょう。

また、相手の要望を聞き出すことも大切です。「残業はできる限り避けたい」「ブランクがあるから丁寧に教えて欲しい」「子どもの迎えがあるので時間に制約がある」など、働き方のニーズは人によって異なります。決めつけずに聞き出し、応えられることと応えられないことを正直に伝えましょう。それが、入職後の関係づくりの出発点になります。

入職後のイメージを具体的に伝える

面接の終盤では、入職後の流れを具体的に伝えましょう。「OJT期間はおおよそ〇ヶ月で、指導担当者がつきます」「最初の1ヶ月はこういう業務から覚えてもらいます」という見通しがあるだけで、応募者の不安は大きく和らぎます。

「いつから来られますか?」だけで終わる面接と、入職後のイメージまで丁寧に伝える面接では、その後の定着率に差が出ます。面接の時間は、採用の場であると同時に、定着への第一歩でもあります。

初出勤前の準備が「歓迎」を演出する

初日の印象は、長く記憶に残ります。「あの職場の初日はこんな感じだった」と、何年も経ってから語れるほど、人は初日の体験を鮮明に覚えているものです。

しかし、「歓迎する気持ち」は、準備という形にしなければ相手には伝わりません。初日を迎える前に、管理者として整えておくべきことがあります。

備品・書類の準備を万端に

新人が初日に使う書類・ファイル・名札・制服などは、前日までに名前入りで準備しておきましょう。「今日からだったっけ、ごめん、ちょっと待ってて」という初日は、悪意がなくても歓迎されていないという印象を与えやすいでしょう。

準備するだけでなく、ファイルなどに名前が記入されているだけで「自分のために用意してくれた」という感覚が生まれます。かつて、人材育成の手本として注目されたオリエンタルランドでは、何百人規模で入職する新人一人ひとりのファイルや備品に必ず名前が入っていたと聞きます。規模は違っても、この発想は今日からでも取り入れられます。

準備漏れを防ぐために、チェックリストを作っておくことをお勧めします。管理者がすべてを準備する必要はありません。リストがあれば、担当を分けて確認することができます。

指導担当者を事前に決める

指導担当者が決まっていないまま初日を迎えると、育成計画やシフト調整が後手に回ります。できる限り入職前に決め、担当者自身にも役割と期待を伝えておきましょう。

面接で得た情報(応募者の経験・要望・働き方のニーズ)は、指導担当者と必ずすり合わせておくことが大切です。「面接ではそう聞いていたのに」というすれ違いが、新人の不信感・早期離職につながることがあります。

全職員に「笑顔で挨拶・自己紹介」を具体的に伝える

「〇日に新しい人が来るからよろしく」という伝え方だけでは不十分です。「よろしく」が意味することは人によって異なります。話しかけられたら答える程度なのか、自分から挨拶に行くのか、自己紹介をするのか——受け取り方はさまざまです。

伝えるなら「笑顔で挨拶と自己紹介をお願いします」と具体的に。直接関わらない職種や他のフロア・クラスの職員にも周知しておきましょう。新人にとって、廊下ですれ違った先輩職員から声をかけてもらえるかどうかは、働き続けられそうかを判断する評価ポイントの一つです。

初日は帰宅後の表情まで演出する

疲れているだろうし、、定時になったらすぐ帰らせよう。

その気持ちはよく分かります。初めての職場で緊張し続けた新人を、気遣って送り出す。これ自体は間違っていません。

ただ、気をつけたいのはその後です。指導についていた先輩職員は、新人を帰らせた途端に「ようやく自分の仕事ができる」とばかりに業務に戻っていく。新人が質問したかったとしても、すでに先輩職員の姿は見えず…その日に感じた疑問を聞く、振り返る時間もないまま、新人は一人で帰宅する——。

その夜、新人はどんな表情をしているでしょうか。「楽しかった、また明日も行きたい」と思っているでしょうか。それとも、解消されない不安を抱えたまま、「自分はここでやっていけるだろうか」と考えているでしょうか。

初日を設計するとき、「初日を思い返した新人の表情」まで想像できているかどうかが、定着する職場とそうでない職場の分かれ目の一つです。そのためには、どう工夫し、どう演出すればよいのでしょうか。

全職員からの挨拶と自己紹介

朝礼があれば、その時間を使って新人を紹介し、一言話してもらう場を作りましょう。利用者や保護者・児童がいる場面では、先輩職員が一緒についてご紹介する。こうした場面を意図的に作ることが、「歓迎されている実感」につながります。

また、名前と顔が一致しない状態は、新人にとって大きな不安要素です。職員の顔写真と名前・ひとことプロフィールをまとめた紹介ブックを用意している事業所もあります。特に直行直帰が多く、他の職員と会う機会が少ない訪問系の事業所では、こうした工夫が重宝されています。

プラスアルファの印象付け

初日に「ここに来てよかった」と感じてもらえる、もう一つの仕掛けを考えておきましょう。たとえば、100円ショップで買えるネームタグを複数の種類から選んでもらう、ウェルカムカードを用意しておく、近隣のおすすめランチマップを渡す、利用者や児童とウェルカムソングで迎えるなど、職場の業種や雰囲気に合わせた工夫が考えられます。

正解は一つではありませんが、「初日に何かプラスアルファを」という発想を持つだけで、職場の雰囲気は変わっていきます。

1日の終わりに5分の振り返りを設ける

定時になったらすぐ帰らせるのではなく、5分でいいので振り返りの時間を設けましょう。「今日はどうでしたか?」「疑問に感じたことはありましたか?」この一言があるだけで、新人が抱える不安の多くは和らぎます。

たった5分で、翌日も来てもらえるかどうかが変わるかもしれない。そう考えると、惜しくはないはずです。

2日目以降、安心を積み上げる 〜迷いと不安から、共有と安心へ〜

初日を乗り越えても、新人の不安はすぐにはなくなりません。むしろ、業務を覚えながら日々の現場に入っていく中で、「自分はちゃんとできているのだろうか」「先輩たちに迷惑をかけていないだろうか」という迷いや不安が積み重なっていきます。

2日目以降をどう設計するかが、独り立ちまでの定着を左右します。

計画の進捗を相互で確認する

OJT進捗表や能力評価シートを活用している職場では、指導担当者が一方的にチェックするだけでなく、新人と一緒にすり合わせる機会を定期的に設けることをお勧めします。

「自分はすごく遅れているのではないか」「指導者の期待に応えられていないのではないか」——こうしたすれ違いは、相互確認がないところで生まれやすいでしょう。進捗を可視化し、共有することで、お互いの認識のずれを早めに修正することができます。

振り返りは「本人に話させる」ことをメインにする

定期的な振り返りや面談の場では、指導担当者が話しすぎないことが大切です。熱心な指導者ほど、ついアドバイスや指示が多くなりがちです。しかし、新人からすると、「自分の話を聞いてもらえない」という感覚につながることがあります。

まず、新人に話させましょう。「今週はどうでしたか?」「うまくいったと感じたことはありますか?」「逆に難しかったことは?」——相手が話したことに対して、否定せずにまず受け止める。「それは大変でしたね」「よくそこまで気づきましたね」という一言が、新人の安心感と自信につながります。

振り返りの目的は2つです。話させることによるガス抜きと、話の内容から理解度と価値観を把握すること。この2つを意識しておくだけで、振り返りの質は変わります。

指導担当者自身にも声をかける

新人の定着を支えているのは指導担当者です。しかし、指導担当者自身も、慣れない役割に戸惑いや負担を感じていることがあります。「ちゃんとできているのかな」「この教え方でいいのかな」——そういった不安を抱えながら指導している職員は少なくありません。

管理者として、指導担当者に対しても定期的に声をかけましょう。「最近どう?無理してないか?」「何か困っていることはある?」この一言が、指導担当者の安心につながり、それが新人への関わり方にも、じわじわと影響してきます。新人だけでなく、指導担当者も「見てもらえている」と感じられる環境をつくることが、管理者の大切な役割の一つです。

独り立ち直前こそ、言葉を尽くす

もうすぐ独り立ちだね!

間もなく独り立ちを迎えようとする新人に、このように声をかけたとき…

ようやくです!待っていました!

前向きに答える新人はどのくらいいますか?研修で受講者に質問すると、だいたい苦笑いが返ってきます。

そうなんです…。正直、まだ不安なんで……もう少し延ばしてもらえますか?

どちらかというと、こちらの反応が多いようです。

そのとき、みなさんはどのように声をかけますか?「大丈夫、あなたならできる!私がちゃんと見てきたから」という言葉で送り出すことは、励ましのつもりでも、不安を感じている新人にとっては「不安な気持ちを押し切られた」と感じさせてしまうことがあります。

独り立ち直前に新人が必要としているのは、根拠のある言葉です。

OJT進捗表でここまでの成長を可視化する

OJT進捗表や能力評価シートを一緒に振り返りましょう。「最初は全く丸がなかったところに、これだけの丸がついてきた。この一つひとつは、あなたが毎日現場に入って、疑問を聞いて、練習を重ねてきた結果だ。」

こうして成長を可視化することで、「大丈夫」という根拠のない励ましではなく、「ここまでできるようになった」という具体的な事実を共有することができます。不安がゼロになるわけではありませんが、「まずやってみましょう」という言葉の重みがまったく変わります。

独り立ち後の成長の方向性をセットで伝える

独り立ちはゴールではありません。しかし、褒めるだけで終わってしまうと、新人が「ここで成長は終わりだ」と誤解してしまうことがあります。

「今の時点では独り立ちには十分な力がついている。その上で、次はこういうことを伸ばしていってほしい。そのために周りはこういうサポートをする。」このセットで伝えることで、独り立ち後の成長の方向性が明確になり、新人も前を向きやすくなります。

「しんどかったこと」を聞き出す一言

独り立ちのタイミングは、これまでの受け入れを振り返る絶好の機会でもあります。新人に「入職からこれまでで、嬉しかったこと」「もし、改善してほしいことがあるとしたら」を聞いてみましょう。

不満を言いにくい新人には、こんな聞き方が有効です。

  • もし、コレがあったら入職からこれまでの期間が最高のものになったのに、と思うことは?
  • 先輩の教え方や関わり方に無理やり改善点を出すとしたら?
  • 次の新人が、あなたのときよりもっと良いOJT期間を過ごすためには?

仮定や次の新人に向けてと訊き方を工夫すると、比較的答えやすくなります。

この声は、次の新人の受け入れに生かすための大切な情報です。聞き出した内容を指導担当者や職員と共有し、次の受け入れに反映していく。この繰り返しが、職場の受け入れをじわじわと底上げしていきます。

なお、新人の定着を支えるうえで欠かせない「現場職員の巻き込み方」については、以下の記事でも取り上げています。あわせてご覧ください。

介護・福祉の新人定着を阻む「悪循環」の正体と、管理職が今日からできること
新人が定着しない職場には共通する構造があります。介護・障がい・保育の研修現場から見えてきた「神対応・塩対応」の違いと、悪循環を断ち切るための管理職の具体的な動き方を解説します。

まとめ——気持ちだけでは現実は変わらない

採用面接から独り立ちまで、5つのステップで見てきました。

「歓迎したい」「定着してほしい」という気持ちは、多くの管理者、現場職員が持っています。しかし、気持ちだけでは、現実は変わりません。現実を変えるのは、行動だけです。

5つのステップの中で、今日から取り組めそうなことは何でしょうか。全部を一度にやる必要はありません。「まずこれだけはやってみよう」と思えるものが一つあれば、それが定着への第一歩です。

どこから手をつければいいか迷ったとき、あるいは職場の状況を客観的に整理したいとき、研修という場を活用していただくことも一つの選択肢です。管理職の方々と一緒に、職場の現状を確認し、実践できることを具体的に考える時間を作ることができます。実際の研修では、記事に書ききれなかった情報も盛り込みながら、貴法人に合わせてカスタマイズいたします。

研修プログラムはこちらからご覧いただけます。

福嶋 潤一(irodori step 代表)

介護主任・eラーニング事業責任者・研修講師というキャリアを経て独立。管理職として組織運営を経験してきたからこそ、「現場の感覚」「組織の論理」「教える技術」の三つを持ち合わせた研修を提供できる。ハラスメント防止・心理的安全性・離職防止など組織の課題を専門とし、全国で登壇。表面的なテクニックではなく「なぜそうするのか」まで届けることにこだわっている。

福嶋 潤一(irodori step 代表)をフォローする

コメント