何度言っても部下が動かない本当の理由──応用行動分析(ABA)が示す、管理職に必要な「自己変革」

人材定着

「何度言っても伝わらない」「また同じミスをした」「言えばパワハラと言われそうで、もう何も言えない」

管理職の方からよく聞くのは、こうした声です。熱心に指導しているのに部下の行動が変わらない。そのたびに無力感を覚え、やがて「この人はもう変わらない」という諦めに変わっていく。

一方で、研修でよく聞くのは人事担当者からのこんな声でもあります。「ハラスメント防止の研修をしても、現場の管理職が変わらない」と。

実はこの二つの悩みは、同じ構造を持っています。「言っても変わらない」という問題が、部下と管理職の両方に起きているのです。

この記事では、その問いに応用行動分析(ABA)の視点から答えを探ります。ABAは発達支援や教育の現場で長く使われてきた行動科学の一分野ですが、その骨格は職場マネジメントにも直接応用できます。骨格はシンプルです。「きっかけ・行動・みかえり」という3つの要素で、あらゆる行動を読み解くことができます。

この記事を読み終えたとき、「部下の行動が変わらない理由」がこれまでとは違う角度から見えるようになるでしょう。そしておそらく、その答えは思っていたより手前にあることに気がつくはずです。

何度言っても変わらない。それは部下の問題ではないかもしれません

部下が動かないとき、多くの管理職は「あの人はやる気がない」「理解力が足りない」「何度言ってもわからない人だ」という結論に向かいがちです。

その判断は、ある意味では自然なことです。繰り返し言っても変わらないなら、変わらない側に問題があると考えるのは合理的に思えます。

ただし、この見方には一つの盲点があります。

行動は、その人の「内側」だけで決まっているわけではない、ということです。

行動科学の研究が示しているのは、人の行動は「その人を取り巻く環境・状況・文脈」と深く結びついているという事実です。同じ人でも、置かれる状況が変われば行動は変わります。逆に言えば、状況が変わらなければ、いくら言葉で訴えかけても行動は変わりにくいと言えます。つまり、課題解決の道を塞いでいるのは、「あの人はいつもそういう人だ」という見方とも言えるのです。

これは部下を庇うといった単純な話ではありません。管理職が介入できる余地を広げるための視点の転換です。「人の問題」と捉えると、打てる手がなくなります。しかし、「環境・状況の問題」と捉えると、設計できることが見えてきます。

実際に、研修でよく聞くのは「言い方や言葉を変えても変わらなかったのに、仕組みを変えたら動き始めた」という管理職の声です。その「仕組み」の設計を体系的に整理したのが、ABAのABC理論です。次のセクションで詳しく見ていきます。

行動を「きっかけ・行動・みかえり」で読む──ABAのABC理論とは

応用行動分析(Applied Behavior Analysis、略称ABA)は、B.F.スキナーの行動分析学を基盤に、1960年代以降にアメリカで発展した心理学の一領域です(Cooper, Heron & Heward, Applied Behavior Analysis, 2nd ed., 2007)。行動の増減を「その行動が起きる前後の環境」から説明・介入する手法として、教育・医療・組織開発など幅広い分野で活用されています。

ABAの核心にあるのが「ABC分析」です(Skinner, Science and Human Behavior, 1953)。

【ABC理論:3つの要素】

要素英語平易な言葉問い
AAntecedent(先行条件)きっかけこの行動が起きる前に、何があったか?
BBehavior(行動)行動具体的に何をしたか・しなかったか?
CConsequence(後続条件)みかえりその行動の後に、何が起きたか?
応用行動分析のABC理論フロー図。A(きっかけ)・B(行動)・C(みかえり)の3要素を左から右へ矢印でつないだ図解。
ABC理論の3要素。行動を変えたいときは、B(行動)ではなくA(きっかけ)とC(みかえり)に働きかけます。

この3つで、あらゆる行動を読み解くことができます。

たとえば「仕事の納期を守らない(ように見える)部下」がいたとします。多くの場合、管理職は「納期遅れ」だけに注目して「なぜ間に合わないのか」「次からは必ず守りなさい」と介入しようとします。

ところがABC(きっかけ・行動・みかえり)で読むと、見え方が変わります。

  • A(きっかけ):後輩が忙しそうにしているのを目にした
  • B(行動):自分の仕事を後回しにして、後輩の仕事を手伝う
  • C(みかえり):自分の納期が遅れ、上司に注意される

管理職は「納期を守らない部下」と見ています。しかし実態は、後輩を助けるという本来望ましい行動がC(みかえり)によって減るだけかもしれません。注意が続けば「手伝う」という行動は消える可能性があります。これは、心理的安全性の因子である「助け合い」が減るということです。

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リプション「何か意見は?」と聞いても沈黙が続く職場には理由があります。心理的安全性の正しい定義・4つの因子・変革の3段階を解説し、管理職が明日から実践できる行動スキルをお伝えします。

もしくは、後輩のフォローを続け、上司の注意に対しては不満だけが残ることも考えられます。介入すべきは「納期遅れ」という表面的なことへの注意ではなく、A(きっかけ)である後輩の業務量調整またはスキルアップか、C(みかえり)の設計です。C(みかえり)が「注意されるが業務量は変わらない」である限り、「納期遅れ」は変わりにくいのです。

行動を変えたいなら、A(きっかけ)かC(みかえり)を変えるこれがABC理論の基本的な発想です。

また、ABAには「強化」と「弱化」という概念があります。

  • 強化:ある行動の後に好ましい結果(好子)が返ってくると、その行動は増える
  • 弱化:ある行動の後に不快な結果(嫌子)が返ってくると、その行動は減る
好子・嫌子と強化・弱化の関係を示す2×2マトリクス図。職場での具体例を添えた図解。
強化と弱化の関係。好子が増えると行動は強化され、嫌子が増えると行動は弱化されます。

「叱る・注意する・プレッシャーをかける」はすべて嫌子です。嫌子はその場で行動を抑制する効果がありますが、問題行動の根本を変えるわけではなく、また別の弊害を生みやすい。この点については後半で詳しく扱います。

まず次のセクションでは、「A(きっかけ)を変えること」が職場でどのように機能するか、具体的な事例で見ていきます。

「きっかけ(A)」が変わると人は動く──環境設計という発想

管理職がいくら言葉で訴えかけても動かなかった人が、あるとき突然動き出す。そういう場面を、研修でよく聞くことがあります。

あるケースでは、「自立して考えてほしい」と何度伝えても反応が薄かったスタッフが、ベテランの先輩が退職したタイミングを境に、自分から動き始めたという例がありました。

「言葉が届いたわけでも、研修を受けたわけでもない。先輩がいなくなったという事実だけで変わった」という管理職の言葉が印象的でした。

ABC(きっかけ・行動・みかえり)理論で読むとこうなります。

  • 以前のA(きっかけ):「先輩がいれば先輩に聞けばいい」という状況
  • 変化後のA(きっかけ):「先輩がいない。自分がやるしかない」という状況
  • B(行動):自ら考えて動く
  • C(みかえり):業務がまわる、周囲から感謝される

A(きっかけ)が変わったことで、B(行動)が変わりました。

これは偶発的に起きたことですが、意図してA(きっかけ)を設計することもできます

岐阜県に本社を置く未来工業株式会社では、業務改善などの提案を1件出すごとに500円を支給する制度を設けています。どんな小さな提案でも対象となり、現在では毎年約5,000件の提案が提出されています。アイデアが実現に至った場合にはさらなるインセンティブが支給される仕組みです。

未来工業を知る|採用情報|未来工業株式会社
  • A(きっかけ):いつでもアイデアを提出できる仕組みと機会がある
  • B(行動):アイデアを書いて提出する
  • C(みかえり):必ず何らかの対価と反応が返ってくる

「アイデアを出しても無駄」という経験が積み重なっている職場では、人はアイデアを出しません。まずA(きっかけ)が整い、C(みかえり)が機能して初めて、B(行動)は起きやすくなります。

こちらの例では、C(みかえり)が金銭的なインセンティブです。しかし、C(みかえり)はもちろん金銭的なインセンティブに限りません。いずれにしても、「人を変えようとする前に、状況を変える」という発想の転換です。

A(きっかけ)を設計することは、管理職にできる最も先手を打った介入の一つです。「なぜ動かないのか」と問う前に、「動きやすい状況になっているか」を問うてみましょう。

なぜ管理職は「嫌子」に走るのか──フィードバックの落とし穴

「どうフィードバックすればいいかわからない」という声を、管理職の方からよく聞きます。

フィードバックへの迷いは珍しいことではありません。ただ、その迷いの多くは「どう伝えれば相手が動くか」ではなく、今の時代「どう言えばパワハラにならないか」というリスク回避の方向に向かっていることが多いようです。

結果として起きやすいのが、「嫌子」への偏重です。

嫌子とは、行動の後に返ってくる不快な結果のことです。叱責する、プレッシャーをかける、冷たい反応をする、無視する、否定する──これらはすべて嫌子に分類されます。

ここで一つ注意が必要です。好子か嫌子かを決めるのは、受け手です。

管理職が「よかれと思ってやったこと」が、相手にとっての嫌子になっていることは珍しくありません。

たとえば、みんなの前で部下を褒めたとします。管理職はよかれと思ってのことでしょう。しかし、人前で注目されることが苦手な部下にとっては、それは不快な体験──つまり嫌子になります。次回から「目立つことはしないようにしよう」という回避行動が生まれるかもしれません。

あるいは、管理職が丁寧にアドバイスをしたとします。内容は正しく、善意から出た言葉です。しかし受け手が「押し付けられている」と感じれば、それは嫌子として機能します。「相談すると長くなる」という経験が積み重なれば、相談という行動そのものが消えていきます。

好子か嫌子かは、渡した側ではなく、受け取った側が決めます。「自分はよいことをした」という主観は、行動変容の効果を保証しません。
管理職が好子のつもりで行った行動が、受け手には嫌子として体験される事例を示した対比図。
管理職の意図と部下の体験のズレ。好子か嫌子かを決めるのは、渡した側ではなく受け取った側です。

嫌子には即効性があります。その場では行動が止まります。だからこそ、管理職は無意識に嫌子に頼りがちになります。「強く言ったら動いた」という経験が積み重なると、嫌子を使うこと自体が強化されていくからです。

子育てでも同じ構造が起きます。子どもが言うことを聞かない→強く言う→言うことを聞く。この経験が積み重なると、次回以降も強く言うようになります。聞かなければ、さらに強く言う。気がつけば、強く言わなければ動かない関係ができあがっています。職場でも、まったく同じことが起きています。

私自身の話をすると、父はとても厳格な人でした。ちょっとしたことでも強く叱責されましたし、当時は手を挙げられることも少なくなかったです。その結果、物事の判断基準が「父に怒られるか怒られないか」という軸になっていきました。明らかに怒られるだろうと思うことは、できる限り隠すようになっていました。

ただ、年を重ねて自分自身が親になってから、父の厳しさが愛情の裏返しだったということが少しずつ理解できるようになりました。今では良好な関係を築けています。父を責めたいわけではありません。ただ、嫌子が積み重なると、子どもの行動がどう変わっていくかを、自ら体験してきたのです。

嫌子を使い続けることで管理職自身の行動が強化される負のループを示した循環フロー図。
嫌子の罠。「強く言えば動く」という経験が積み重なるほど、管理職は嫌子に依存しやすくなります

ところが、嫌子には重大な弊害があります。

  • 「怒られないようにする」という回避行動が増える
  • 報告・提案・相談という自発的な行動が減っていく
  • 管理職への不信感・恐怖心が蓄積される
  • 職場全体が「何も言わない方が安全」という沈黙の文化になっていく

【管理職が無意識にやってしまいがちな「嫌子」の行動】

場面管理職の行動(嫌子)部下が学習すること
部下が相談に来た忙しそうにしながら話を聞く相談しない方がいい
部下が提案した「それは難しい」と即座に返す提案しても無駄だ
部下がミスを報告した「なぜこうなったんだ」と詰める報告を遅らせるか隠す
部下が質問した「それくらい自分で考えろ」と返す聞かない方が安全だ
部下を褒めた(全体の前で)善意で公開承認する目立つことはしないようにしよう

これらはどれも、管理職が「悪意を持ってやっている」わけではありません。忙しさのなかで、つい出てしまう反応です。しかしABC(きっかけ・行動・みかえり)の視点で見ると、これらはすべて「望ましい行動を消していくC(みかえり)」として機能しています。

これはまさに、心理的安全性が損なわれていく過程そのものです。

そして、嫌子が極端な強度・頻度・継続性で使われたとき、それはハラスメントになります。パワーハラスメントは、嫌子が極端な形で発現した状態と理解することができます。

管理職が「厳しく指導している」と思っている行動が、受け手には「恐怖体験」として蓄積されているとき、多くの場合そこには嫌子の過剰使用があります。人事担当者がいくらハラスメント防止研修を実施しても現場が変わらないとすれば、管理職が「嫌子でしか動かせない」という状態に陥っていることが一因として考えられます。

「言い続けても変わらない」と感じているとき、その管理職は嫌子を繰り返しているだけかもしれません。

嫌子を減らし、好子を増やす設計に移行すること。その具体的な方法を次で見ていきます。なお、心理的安全性が高い職場と嫌子・好子の関係については、「心理的安全性の作り方──職場に意見が出ない本当の理由と、管理職が今日からできること」でも詳しく解説しています。

望ましい行動を「強化」する──好子の使い方と具体的な声かけ

好子とは、行動の後に返ってくる好ましい結果のことです。行動科学では、好子が返ってきた行動は繰り返されやすくなるとされています。前述した通り、これを「強化」と言います。

では、どうすれば、職場で好子を機能させることができるでしょうか。

管理職がすぐに実践できる方法として、「望ましい行動が出た瞬間を捉えて、即・具体的・確実に反応する」というアプローチがあります。

たとえば、部下が相談に来るとき。「どうしましょう?」と問題だけを持ってくることが多かった部下が、あるとき「自分はこう思うのですが、どうでしょうか」と自分なりの考えを添えて来たとします。

このとき、「それでいいと思うよ」とつい流してしまうことがあります。そこで少し立ち止まって考えることができるかがポイントです。

「自分の意見も持ってきてくれたね。ありがとう。こうやって考えを持ってきてもらえると、一緒に議論できるから助かるよ」

この一言が、次の行動を変えます。

  • A(きっかけ):悩ましい案件が出てきた
  • B(行動):自分なりの考えを添えて相談する
  • C(みかえり):具体的に感謝される・承認される

C(みかえり)が明確に返ってきた行動は、繰り返されやすくなります。反対に、自分の考えを持ってきても反応が薄ければ、その行動は消えていきます。

強化のポイントは3つです。

  1. 即座に:行動が起きた直後に返す。時間が経つほど強化の効果は薄れます
  2. 具体的に:「よかった」ではなく「〇〇してくれたことが、よかった」と行動を明示する
  3. 確実に:望ましい行動が出たときは、どんなに忙しくても必ず反応する
望ましい行動を強化するフィードバックの3原則(即座に・具体的に・確実に)を示したステップ図。
好子フィードバックの3原則。即座に・具体的に・確実に返すことで、望ましい行動は繰り返されやすくなります。

「確実に」がとくに重要です。「たまに反応される」より「必ず反応される」方が、行動は強く強化されます。「相談しても反応がないことがある」という経験が積み重なると、相談という行動そのものが消えていきます。

「また来たか」という表情で受け取るのか、「話してくれてありがとう」と受け取るのか。管理職自身も忙しいとは思いますが、この差が半年後のチームの姿を変えていきます。

部下の行動を変えたいなら、まず自分の行動を変える

ここまで、ABAの視点からA(きっかけ)の設計とC(みかえり)の設計を見てきました。

ここで一つ問いを立ててみましょう。

部下の行動を作っているC(みかえり)は、誰が返しているのでしょうか。

多くの場合、それは管理職です。

部下が「報告した」→管理職が「また来たか」という顔をした
部下が「提案した」→管理職が「それは難しい」と即座に切り返した
部下が「相談した」→管理職が忙しそうにしていて、話を最後まで聞かなかった

これらはすべて、「報告・提案・相談という行動を弱化するC(みかえり)」として機能しています。管理職が意図していなくても、部下はC(みかえり)を受け取っています。そしてそのC(みかえり)が積み重なった結果として、「何も言わない部下」が出来上がっていきます。

部下の行動パターンは、管理職が返してきたC(みかえり)の積み重ねで作られています。

この視点から見ると、「部下が変わらない」という問いは「私はどんなC(みかえり)を返してきたか」という問いに変わります。

これは責任論の話ではありません。むしろ逆です。「自分のC(みかえり)を変えれば、部下の行動は変わる可能性がある」という希望の話です。

管理職自身のC(みかえり)を変える3つの視点

では具体的に、自分のC(みかえり)をどう変えていけばよいでしょうか。以下の3つの視点が出発点になります。

視点1:「反応しないこと」も、C(みかえり)である

管理職が何も言わなかったとき、部下はC(みかえり)を受け取っていないように見えます。しかし、「無反応」それ自体が、部下にとってのC(みかえり)になっています。提案して何も反応がなければ「この行動に意味はない」と学習します。沈黙は中立ではなく、弱化のC(みかえり)として機能すると考えましょう。

視点2:問題行動ではなく、望ましい行動を探す

嫌子に走りやすい管理職の多くは、「問題行動が起きたとき」だけ反応するパターンに陥っています。逆の発想で、「望ましい行動が起きたとき」を意識して探すことが、好子設計の第一歩です。研修でよく聞くのは「承認できるところなんてないと思っていたが、意識してみると、部下が意外といいことをしているのに気がついた」という管理職の言葉です。

視点3:自分のC(みかえり)を変えることは、管理職自身の行動変容である

「部下を変えたい」という動機から始まった取り組みが、最終的に「自分の関わり方を変える」という結論に着地するとき、多くの管理職は最初戸惑い、受け入れがたい感情を持ちます。これまで積み重ねたプライドが傷つけられたと感じるかもしれません。しかし、プライドが傷つくことではなく、マネジメントを進化させ、プライドを深化させることを意味しています。

この視点は、人事担当者にも直接つながります。「ハラスメント防止研修をしても現場が変わらない」という悩みの多くは、管理職が「嫌子でしか動かせない」という状態から抜け出せていないことに起因しています。

研修で「嫌子はよくない」と知識として理解しても、行動パターンとして「嫌子に走る」が染みついていれば、職場での行動は変わりません。行動が変わるのは、知識が入ったときではなく、新しい行動が強化されたときです。管理職自身の行動変容を支援する設計が、研修に求められている理由はここにあります。

自己強化:自分自身の行動も設計できる

「好子を返す」という行動は、慣れないうちは難しく感じることがあります。これまで嫌子を中心にマネジメントしてきた管理職が、急に好子を返そうとすると、どこか不自然に感じることもあるでしょう。

そこで有効なのが「自己強化」という発想です。望ましい行動をとった自分自身を、小さく認めることです。「今日は部下の発言に具体的に反応できた」と気づいたとき、それを記録する、好きな飲み物を飲む、何でも構いません。

行動はみかえりによって強化されます。これは部下に対してだけでなく、管理職自身にも同じように機能します。

まとめ:ABC理論の3要素と、管理職が今日できる一つのこと

この記事で扱ったABC理論の3要素を整理します。

要素意味介入のポイント
A
きっかけ
行動が起きる前の状況・環境望ましい行動が起きやすい状況を設計する
B
行動
具体的にとった行動・とらなかった行動変えたいのはB(行動)ではなく、A(きっかけ)とC(みかえり)
Cみかえり行動の後に返ってきた結果好子を即座・具体的・確実に返す

「何度言っても変わらない」という問いの本質は、「どんなC(みかえり)を返してきたか」という問いです。部下の行動を変えるために、まず変えられるのは「自分が返すC(みかえり)」です。

今日から始められることは、一つだけ考えてみましょう。

望ましい行動が部下に見えたとき、他のどんなことよりも優先して「それいいですね」と具体的に伝ええましょう。

このテーマについてさらに深く学びたい方へ

本記事で扱った「きっかけ・行動・みかえり」の設計は、心理的安全性の構築とも密接に関わっています。「心理的安全性の高い職場とはどういう状態か」「管理職が今日からできる具体的な行動は何か」については、以下の記事で詳しく解説しています。

心理的安全性の作り方──職場に意見が出ない本当の理由と、管理職が今日からできること

「フィードバックの方法がわからない」「言い方を変えたいが何から始めればよいか」「ハラスメントにならない指導の仕方を体系的に学びたい」という管理職・人事担当者の方に向けた研修を提供しています。

  • 心理的安全性の作り方研修:チームに意見が出る環境の設計を体験的に学ぶ
  • マネジメント研修:ABCフレームを使った行動設計と日常のフィードバックスキルを習得する
  • ハラスメント防止研修:嫌子と好子の違いを理解し、指導とハラスメントの線引きを実務レベルで整理する

参考文献

  • B.F. Skinner, Science and Human Behavior, Free Press, 1953
  • John O. Cooper, Timothy E. Heron, William L. Heward, Applied Behavior Analysis (2nd ed.), Pearson, 2007

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